イソフラボンってホントに効くのだろうか
「ああそうだ、こいつを渡しておく。」
交番から出てしばらく歩いた頃、直矢が何かを手渡してきた。
「これは……防犯ブザー?」
しかも小学生低学年の女の子が持つような可愛めのやつ。
「そいつを引っこ抜くといつでも俺がお前のそばにワープする。ワープはその後の処理が面倒だったりリソースを大きく使ったりと色々面倒なんだが、まあ危険を感じた時の最終手段として持っていてくれ。後、デザインについての文句は最高神に言ってくれ。」
「なるほど頼もしい。」
あれだけ激しい兄貴との戦闘や変態への対応を見た後だとどんな防犯グッズよりも頼もしく見える。
「あーズリい! 俺も俺呼び出し機楓に持たせたい! そしてカッコよく敵をやっつけたい!」
「まあああいうことはそんなに頻繁に起こらないでしょ……」
治安が悪めとはいえ荒れに荒れてるなんて程じゃないし。
「いや分からんぞ。俺たちの運命はあのクソ野郎が握ってるからな……」
「ああ……」
最高神……
「まあそういうわけだ。最終手段とは言ったが危険を感じたらすぐ使ってくれて構わない。手遅れになって使えずじまいよりは百倍マシだからな。」
「了解。何から何までありがとう。」
今日だけでも色々してもらったしな。特にさっきの変態の件では助かった。
「礼を言われるようなことは何もしていないさ。大体の事件の原因は俺たちにあるわけだしな。」
「まあそうなんだけど、それとこれとは別でしょ。」
何かしてもらったらお礼。人間の基本だ。
「……まあ、そうだな。礼をしっかり言える人間は好きだ。」
好き……好きねぇ。まあこの言葉自体は嬉しい。人に好意を持たれて嫌がる人間はあまりいないだろうし。ただこれがいわゆる恋愛的な「好き」だとどうなるんだろうか。直矢はそういう意味で言ったわけではないだろうけど。高校生になったし恋愛も、なんて考えてたけどこの状況じゃあなぁ……
「何、好きだと! 俺の妹は渡さんぞ!」
「……会って一日だ。そんなに惚れっぽい男じゃないぞ、俺は。全く、どいつもこいつもすぐそういう方向に……」
全く……と直矢。
なるほど、他の皆には俺がこう見えているのか。自分のことで忙しくて考えられていなかったが、今の直矢はやっぱり色っぽいし、元が男と分かっていても少しアリなのかなと思ってしまう。当然といえば当然だが見た目が変わるとやっぱり周りからの見え方も変わるもんだなぁ。
「ならよし! じゃ、帰るか! 直矢はどっちなんだ?」
「俺はそこの角で左だからそこで別れる形になるな。」
「そうか! 気をつけろよ―――って、そんな心配はいらなかったな!」
「おう。楓、また明日。」
「また明日ー。」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「「ただいまー。」」
家に帰り二人で中に入る。エディも幸も部屋に行ったらしく、姿は見えない。母さんだけがテレビを見ている。
「お帰り。轢かれたらしいけど、大丈夫?」
テレビから目を離して母さんが兄貴に聞く。
「おう! ピンピンしてるぜ! 丈夫が取り柄だからな!」
フン!と両腕を上げてマッスルポーズをとる兄貴。
結構な勢いで轢かれてたけどなぁ。
「良かった。頭のは?」
「ああこれ? 頭突きしたら切れちまった。もう血も止まったし大丈夫だぜ母ちゃん!」
「じゃあ包帯取ってあげるわ。こっち来なさい。」
「これくらい一人で取れるぜ別にー。」
「いいから来なさい。この包帯誰の? 洗って返さなきゃ。」
手招きをされて渋々といった様子で母さんのところへ行く兄貴。
「あー、エディちゃん?が巻いてくれた。あの金髪の子。」
「あらそうなの。明日お礼言わなくちゃね。」
「そうだな! あだだっ、カサブタが、引っかかってる!」
「こういうのは一気に剥がした方が痛くないものよ。……えいっ!」
「あだっ!」
捨身戦法をするような兄貴だがこういう痛みには普通に弱いらしい。
「俺もう寝るわおやすみー。」
「おやすみー。明日早いんだっけ?」
「うん、8時に直矢たちが来る。」
「じゃあ起きてなかったら起こすわねー。」
「よろしくー。あ、そういえばエディって……」
「楓の部屋で寝てるわ。悪いけど部屋は共有してね。」
「はーい……」
やっぱりか……
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふあぁ……」
結局昨日寝たのは12時過ぎ。今の時間はというと7時半といったところ。睡眠時間は8時間未満。俺にとっては少し足りない睡眠時間だ。しかし、なんだかいつもより若干目覚めがいい、というか自分の目覚ましだけで起きたのなんて何ヶ月ぶりだろうか。エディはもう既に起きていたようで、ベッドにはいなかった。
「おはよー。」
リビングに降りて家族に挨拶する。
「楓が自分で起きた……」
「お母さん、赤飯よ! 赤飯炊いて!」
母さんと姉貴が驚きの表情でこちらを見ている。
「赤飯なんか炊くな!」
別の意味にもとれちゃうし!
「確かに今まではほとんど自分では起きなかったけど、事情が事情だしさー……それに体変わったからか意外とスッと起きれたんだよね。」
二度寝したい欲も八割減って感じだったし。
「いいことずくめね、女体化……!」
姉貴が呟く。
いや、俺にとっていいことはそんなに無かったんだけど。
「あ、楓ふぁん、おふぁよーごふぁいまふー。」
エディが歯を磨きながら挨拶してきた。
「おはよー。母さん、朝飯何?」
「目玉焼きとウィンナー、あとデザートにバナナでも食べなさい。」
「そんなに食べられなさそうだしウィンナーはいいや。後はバナナもいいかな。うん、目玉焼きと米だけでいいや。」
「あらそう。少食になったのねぇ。」
「それもあるけどなんか食べたら気分悪くなりそうでさ。」
体質の変化を感じる。
「そう。体調悪いとかじゃなくて?」
「んー、多分違う。」
これが今の体の普通な気がする。
「ならいいけど。はい、目玉焼き。」
「サンキュー。いただきます、と。」
醤油をかけて目玉焼きを食べる。うん、美味い。
「エディは何食べたの?」
歯磨きを終えて洗面所から戻ってきたエディに聞く。
「僕は納豆ご飯と豆乳をいただきました!」
「納豆。意外だ。」
ベタな想像だが、外国人っぽいエディ(実際日本文化に馴染みは薄そうだし)は納豆とかは苦手そうなイメージがあった。
「最初はなんだこれって思いましたけど、直矢さんが食べてるの分けて頂いたら美味しくて、好きになりました! それに、イソフラボンさんもいっぱい入ってるらしいですし!」
「イソフラボン……」
バストアップに効くとか効かないとかって成分だっけか。……育つといいけど。
しかし、どうするかな、生徒会選挙。湯葉生活はなんとしても回避したいから何がなんでも勝たなきゃいけないワケだけど。
「ごちそうさまでした。」
考え事をしているうちに食べ終わったので手を合わせて食器を台所へと運ぶ。その足で洗面所へ向かい、歯ブラシに歯磨き粉をつける。
「エディは勝つためのいいアイディアとかある? あ、今は言わなくていいから考えてて欲しいんだけど。」
姉貴がいるからな。
「んーと……そもそもセンキョ?ってどういうものなんです?」
そこからかー
「えーっと……簡単に言うと、選挙権を持った人間―――今回は生徒なんだけど、に誰が生徒会長になって欲しいか投票―――選んでもらうことなんだけど、をしてもらって、どれくらいの人に選ばれたかを競うもの、かな。だから、なるべくたくさんの人に選んでもらえるようにマニフェスト―――何をどうします、ってい宣言みたいなものなんだけど、を打ち立てるのが重要になるのかな。エディにはこのマニフェストを考えてほしいんだ。」
多分こんな感じなはず。
「なるほどなるほど……考えておきますね!」
マニフェストマニフェスト……と、人差し指を立ててこめかみにあてて呟くエディ。
マニフェスト……どんなのがいいかなぁ。
歯ブラシをシャコシャコ動かしながら考える。
生徒の目線に立って―――いや、実際生徒になるわけだけども。ともかく投票する側の目線に立つことが重要だ。というか―――
直矢たち、生徒目線に立てるのだろうか。
当然ながら俺も高校生の経験はまだ無いわけだから正確な生徒目線には立てないだろうが、逆に言えば入学してすぐの生徒の気持ちは分かる。それに、中学の感覚とそこまでの差は無いはずだ。
一方、直矢たちはこないだまでカミサマとしての仕事(?)をしていたわけで、高校生とか以前に人間としての一般的な感覚を持っているのかというところから始まる。まあ、昨日接した感じからすると、エディはともかく直矢と澄也に関してはそこは問題なさそうではあるが。で、高校生としての感覚だ。神というよりは人間っぽい二人だが、そもそも神の世界(天界なんて言ってたっけ?)に学校はあるのか? あるとして通った経験があるのか? それは何年前なのか? 等々色々疑問が湧く。ああ、でも年齢は若くなる前の見た目準拠らしいから、通った経験があるとして普通に18で卒業したとすると4~6年前ってところか。
なんて考えを巡らせていたところ、歯磨きが終わったのでとりあえず口をすすぎ、顔を洗う。
「ねえエディ。」
「はい、なんです?」
「直矢たちって高校通ってたのかな? というか天界に高校―――というか学校ってあるの?」
「天界に学校は無いですけど、直矢さんたちは人間界出身なので多分通ってたと思いますよ。コッチに来た時もそこまで若くなかったと思いますし。」
「え、人間界出身っていうと……」
「あ、人間界っていうのは天界じゃない僕たちが管理する世界全部のことです! しかもお二人はただ人間界出身っていうだけじゃなく、この世界出身なんですよ!」
「えっ、そうなの!?」
いやに人間らしいとは思ってたけど……
「大体のカミサマは人間界からスカウトされるんですよー。その世界のことを一番知っているのはその世界に住んでる人ですからねー。」
「なるほど……」
理にかなってる……のか?




