誰が何を好きでも問題ない
「まあとにかく、中身見させてもらって、さっきの写真は消させてもらうから。」
「そ、それは……分かったわ。写真は消しておくから、カメラを返してちょうだい。」
見るからに動揺する姉貴。
……本当に裸の写真撮ったりしてないだろうな?
「そんなの通るかよ。どれどれ……」
デジカメを操作するとそこには水着を着た俺の写真と―――
「二人はキューちゃん、だっけ?」
俺の記憶が正しければこれは「二人はキューティーちゃん」だ。いわゆる女児向けアニメだったかな? 幸が昔見ていたのを覚えている。二人組の魔法少女が戦う魔法少女モノなのだが、戦闘シーンは肉弾戦で、でかいキュウリにしか見えないステッキで殴っていた気がする。で、デジカメにはその映画のポスターが映っている。
「うう、見ないで……」
姉貴がベッドの上で枕で頭を押さえながら言う。
「あー、コレ知ってます! 天界でも放送してましたよ! 最高神様が好きみたいで! 澄也さん詳しいんですよー。最高神様も澄也さん経由で知ったみたいです!」
「最高神と澄也が?」
意外だ。天界にテレビがあるのかとかその上この世界の番組が放送してるのかとか聞きたいことは山ほどあるが。
「ええ。この作品は戦闘シーンも含め全体的にクオリティ高いからね、僕の推しアニメの一つだよ、って言ってました! 羽咲ちゃんと梨沙ちゃんの友情がアツいんだって! 僕は羽咲ちゃんが好きです!」
「そう、そうなのよ……このアニメ、二人の友情が尊くて……小さい頃も好きだったんだけど幸が見てるの一緒に見てたら再ハマりしちゃって……今では毎週欠かさず見てるし毎年の映画も楽しみで……」
何故か申し訳なさそうに言う姉貴。
「まあ、姉貴がこのアニメ好きなのは分かったけどなんでそんな悪いことしたみたいな態度なんだ? 別に姉貴がこのアニメ好きでもなんの問題も無いだろ。」
悪い事したと思うなら俺に対して思え。
「だ、だって変でしょ……? 高三にもなって女児アニメが好きなんて……」
「そんなこと言ったら澄也なんかもっと変だろ。もっと歳上だし男だし。」
上司に勧める程だし。
「そうだよ! 今度一緒にフタキュー見よ! 私、久しぶりに見たいな!」
と幸。
「人に迷惑かけない分には誰が何を好きでも問題無いだろ。」
人に迷惑かけない分には、な。
「か、楓ぇ……」
姉貴が感動して泣きそうだという目でこちらを見る。
「まあ、飽くまで人に迷惑をかけない分には、だけどな。」
姉貴の目の前で先ほど撮られた俺の写真を消す。
「そんなぁ……」
先ほどとは違う意味合いの泣きそうな目でこちらを見る姉貴。
「あ、そうだ! そしたら皆で記念写真、ってことにしましょうよ! それなら楓さんだって問題無いですよね?」
エディがキラキラした目でこっちを見てくる。それに続いて幸も。
……ホントはこの姿を形に残されるのが主な嫌なポイントなんだけどなぁ。
いや、勝手に撮られたってのもかなり嫌な要素ではあるんだけど。
ただ、このキラキラした純粋な視線にNOと言えるほど俺の精神はひねくれちゃいない。
「……じゃあ、それなら。」
「ホント!? 撮っていいの!? それも一緒に!? やったやったわエディちゃん、幸! グッジョブよ!」
大喜びする姉貴。
……最初から許可取れば一枚くらいなら考えてやらんでも無かった……いや、撮らせなかったな。エディと幸のお陰だ。
「じゃあ早速撮りましょ! 集まって集まってー―――はい、チーズ!」
姉貴がデジカメを内側に向けて腕を伸ばして皆を撮る。いわゆる自撮り。
インカメでやるのは見たことあるけどデジカメでカメラに何映ってるか見ないでやるのは初めて見た。慣れてるな、姉貴。
「さて、と。じゃあ次の水着だけど―――」
姉貴が大量に並べられた水着の中からいくつか選んでいく。
「あー、こっちよりはこっちかなー。コレは布面積が……ってそうじゃなくて!」
流されていたけど、
「風呂だよ風呂! そこそこ隠せて風呂で洗えればそれでいいんだよ!」
「あっ、そう言えばそうでしたね! すっかり忘れてました!」
「私も忘れてたー。」
「ワタシモワスレテイタワー。テヘッ!」
姉貴がペロッと舌を出すいつもの素振りと合わない謎の言動をする。
「テヘッ!じゃ無いんだよ! 二人はともかく姉貴は絶対覚えてたろ! ほら姉貴、風呂行くぞ風呂。来ないなら勝手に一人で入るからな。」
「光花お姉ちゃんと楓お姉ちゃん一緒にお風呂入るのかー、いいなー。」
「ちょっと楽しそうですよねー。」
「ねー」と口を合わせて言う二人。
これは……
「じゃあ、四人で入っちゃう?」
「入っちゃわねえよ! 恥ずいし何より狭いわ!」
姉貴のアホみたいな提案を却下する。
一人小学生とはいえ四人だぞ!?
「大丈夫よ、なんとかなるなる! あ! 水鉄砲あるわよ!」
いそいそと部屋を出る姉貴。
……これって四人確定なの?
◇◆◇◆◇◆◇◆
「はぁ、疲れた……」
結局四人で風呂で水着パーティ。エディはのぼせてフワーッとした表情で空を眺め、幸は一日はしゃぎ疲れたのかソファで眠っている。なんとか髪体のケアは習ったので次からは一人でのんびり入れることを願おう。
「でも楽しかったでしょう?」
と姉貴。
「……まあ、退屈はしなかったよ。」
楽しく無かったわけじゃない。これは今回に限ったことじゃ無く今後も含めたことだが、どうせ状況が変わらないならその状況を楽しんだ方がいいことには気づいた。
「写真もいっぱい撮れたわー。防水にしてもらって良かった! この写真は宝物ねー。」
「自分で楽しむ分にはもう何も言わんけど、他の人に見せたりはしないでくれよ?」
「もちろん! 私だけの宝物よ! ああ、今日はいい一日だった!」
とても上機嫌な姉貴。
まあ、やりたい放題だったし大満足なんだろう。
「さて、私はそろそろ今日の分の勉強を済ませるとするわ。勉強は日々の積み重ね、だからね。」
なんて言って階段を登って行く姉貴。
なんだかんだ真面目なんですよねこの人。でも―――
「こんな時間から? どれくらいやるの?」
もう夜10時だ。明日の予定は知らないが姉貴は予定に関わらず朝起きるタイプみたいだし、もう寝るとは行かずとも、今からガッツリ勉強する時間はなさそうだけど……
「んー、3、4時間ってところかしら。後ちょっとだし今日中に参考書終わらしておきたいのよねー。」
長いな……
「明日何時に起きるの?」
「6時半……いや、6時にしようかしら。明日は午前はフタキューの映画を幸と見るし、午後は友達と買い物行くから一日忙しいし、朝勉強済ませとかないと時間カツカツになっちゃうから。」
「早っ!? えっと、4時間勉強したとして6時起きだと……4時間睡眠!?」
死んじゃう死んじゃう。
「4時間も眠れば十分よ。まあ、連日4時間とかは流石にしんどいけどね。でも生徒会選挙もあるししばらくは4〜5時間睡眠かしらねー。」
「ショートスリーパーってヤツ?」
ロングスリーパーとしては羨ましい限り。
「多分ねー。」
「……なんか、時間使わせて悪かったね。」
ここまでハードスケジュールの人間をあんだけの時間拘束していたとなってはいくら本人が主導だったとはいえ若干の罪悪感が湧いてくる。
「いいのよいいのよ。楽しかったしね。あ、でもその代わり今から今夜中は集中させてね。」
じゃねー、と言い残して階段を上がる姉貴。
「勉強頑張って。」
明日早いし俺はいつもより早いけど寝るかなー、なんて考えていると、
ブーッ、ブーッ
携帯が鳴る。
画面を見ると、
兄貴
とある。
「なんだよもう……もしもし? どうしたん?」
「いやー困っててさ! 轢き逃げ野郎を追っかけて捕まえて交番まで連れてったんだけどよ、頭の包帯とか光るTシャツとか見たらお巡りさん俺の方が不審者だなんて言ってきてさー。事故の目撃者と身元を証明できる人間を連れてきてくれって言うんだよ。誰か寄越してくんない? あ、楓でもいいけど。あー、でも楓をこの夜道歩かせるのは不安だなー。まあ、ちょっと困ってるからなんとかしてくれ! じゃっ!」
ブツッと電話が切れる。
「めんどくさ……」
幸は寝てるし小学生だから論外、エディもボヤーッとしてるし、姉貴の邪魔をするわけにはいかない。ということは―――
「俺が行くしか無いかぁ。」
つっても俺の身分証が無ければ意味が無いのでは? 今の俺の身分証なんて無いぞ?
「ねえ母さん、俺の新しい身分証って預かったりしてる?」
「え? 無いけど、どうしたの?」
かくかくしかじかで、と事情を説明する。
「んー、そしたらこんな時間に悪いけど、直矢君に連絡するしか無いかしらねー。私は事故を見てないわけだし行ってもねー……」
「だよねー。連絡できるの?」
「ええ。携帯の電話番号を預かってるわ。」
「分かった、それ送って。」
「はーい。」
ポニャン、と間の抜けた通知音と共に母さんから電話番号が送られてくる。
ニャイン、便利なんだけど、この間抜けな通知音だけはどうにかならないもんなのか。
GW入ったら執筆ペース落ちてストックが無くなるかもです。やる気をください。




