がんばれハゲゴリ
「……一度に色々言いすぎだ、順番に話せ。」
面倒そうに直矢が言う。
「ではまず一つ目の質問だが、キミは直矢君で合っているのかな? 性別は変わっているようだけど傷の位置とあとはまあ雰囲気という漠然としたモノになってしまうがそれも一致している。楓の例もあるしボクの推測ではキミは直矢君ということになっているのだけれど、合っているかい?」
「ああ、正解だ。」
「それはどういう風の吹き回しで? ああ、失敬、元の姿がこっちという可能性を失念していた。つまり―――こうだね。女体化、もしくは男体化の原因は?」
「……端的に言えばクソ上司のイタズラってとこだな。あと俺は元々男ということで合っている。」
冬士さんの質問攻めに早くも辟易した顔の直矢。
「ほう! キミたちに上司が! それは知らなかった! どんな人間―――違うか、カミサマなんだい?」
「クソ野郎、だな。そもそもアイツの下で働いていること自体俺の本意じゃないしな。」
そうなのか。意外。……いや、アレだからな。それもそうか……
「え、直矢そうだったの? 僕は結構今の状況気に入ってるんだけどなぁ。」
「僕もお二人と働くの好きですよ!」
と天使の二人が。
「あーいや、お前らと働いていること自体にはおおむね文句は無いんだが……」
少し申し訳なさそうに言う直矢。
「上司がクソ野郎、かー。いやぁ大変だねぇ。その点ボクの学校職員は幸せと言える!」
ハッハッハと誇らしげに胸を張る冬士さん。
冬士さんが上司ってのも中々だと思うけどなぁ……
「それはどうかと……いや、なんでもない。」
直矢も同じ意見だったのか何か言いかけるが途中でやめた。
賢明だ。これからこの高校に通う以上校長兼理事長である人間に何か言うのは得策じゃない。冬士さんだし。
「いやしかし、キミたちすごいねぇ! 少なくとも錬金術に関してはキミたちは本物みたいだ! いやはや素晴らしい! 是非ボクも錬金術ができるようになってみたい! 別に金稼ぎに興味は無いが、金は優れた金属だからね! きっと人類のためにもなる! それに何よりできたら楽しそうだからね!」
「そうか……」
若干引いた顔で言う直矢。
しかし、とてつもなく冬士さんらしさが凝縮された発言だ。性格は超自己中心的な癖に自分は全人類のために生まれてきたと言って憚らないし、何なら自分は人類の宝だと本気で信じてる。発明の腕とかを考えるとあながち否定しきることもできない辺りがとても面倒な人だ。
「ところで、冬士さん、こんな時間まで学校にいるなんて、残業?」
校長が残業するのかは知らないけど。
「いや、ボクここに住んでるし。毎朝僕がただ移動するだけの時間を過ごすなんて人類の損失そのものだからね! 研究設備もあるし、移動する意味が無いだろう?」
「あー、そうなんだ……」
ハハ、と思わず乾いた笑いをしてしまった。ここまで自信に溢れた人を俺は知らない。
そこに、
「コラ、お前ら何してる!」
スキンヘッドのゴリラみたいな筋肉のおっさんがやって来た。
「これは鉄男先生! 今日の当直は先生だったんだね! そんなに声を荒げないでくださいよー。これはボクが許可した活動ですからー。」
「これは校長! ……校長が許可した活動ならこれ以上は言いませんが、施設の私的な利用はやめてくださいと何度も……」
「いやー、すいません! いろいろ事情がありましてねぇ。」
「で、ここにいるのは……新条姉弟と……誰だお前たちは。」
怪訝な目で見てくる鉄男先生とやら。
まあ、このメンバーだからな。澄也以外はかなり目立つ外見だし小学生(幸)までいるし。
「来年度からここに入学するんです、僕ら。あーっと、彼女は僕の従姉妹で別にこの学校に入学したりするわけじゃないんですけど。」
直矢のことを指して言う澄也。
確かに直矢はこの見た目では入学しないし誤魔化さないといけないな。
「なるほど。百歩譲って来年度入学するこの生徒達はいいとして、部外者を学校に入れんでくださいよ校長。小学生までいるじゃないですか。こんなんじゃ校長が学校を私物化しているなんて噂に反論できませんよ。」
それは噂というか本当の話では。
「いやー、ごめんごめん! 次から気を付けますよ!」
「はぁ……おいお前ら、もうそろそろ遅い時間だから帰るんだ。これ以上遅くなると補導されるぞ。」
「大丈夫だハゲゴリ! 変なのが来ても俺が全員守る! だから問題ないだろ?」
と兄貴。
ハゲゴリて……
「その呼び方はやめろと言っているだろう新条! ……はぁ、第一、補導というのは被害者にならないためだけではなく……まあいい、とりあえずもう帰れ。」
兄貴に説明することを無駄と判断したのか手をひらひらとさせて兄貴に変えるよう促すハゲゴリ先生。
「というわけだ、帰りたまえ諸君! 僕は研究の続きでも……」
「校長、今日仕事しました?」
「え? してないけど。」
何か?という顔をする冬士さん。
仕事はしてくれ……
「面白い研究対象が見つかってね、それどころじゃなかったんだよ! ああ、安心してくれ、入学式までには何とかするから!」
「研究もいいですけど、校長という立場に就いている以上仕事はしてください……校長が仕事を終わらせないとできない準備が沢山あるんですよ……」
ハゲゴリ先生、苦労人なのかもしれない。
「準備ってアレだろ? 授業の年間予定とか。そんなもの、やる気になれば1時間もかからないでしょ。」
ボクの仕事もそうだけどね、と付け加える冬士さん。
「それは校長だけですよ……一般的な人間はあの仕事量だと一日はどう頑張ってもかかりますから……毎年度入学式の前夜は職員全員徹夜してるんですよ……」
はぁ、とため息をつきながら言うハゲゴリ先生。
最悪の上司だ……
「あー、そうなのか。じゃあまあ……うーん……明日、いや、明後日……明後日にしよう!」
「明後日じゃ今までと同じじゃないですか!」
そう、明後日は4月4日、日曜日。入学式である。
……ん?
「ねえ、もしかして……選挙まであまり時間無い?」
直矢にこっそり聞いてみる。
「……無いな。」
「……ヤバくない?」
「……ヤバい。」
「帰ろう! 先生お疲れ様です、入学したらよろしくお願いします!」
直矢と澄也の手を取り出口へ直行する。こんなダメ上司と苦労する部下の問答を聞いている場合じゃない!
「うわわ、待ってください!」
「お姉ちゃんたち待ってー!」
エディと幸もついてくる。
「おっ、帰るのか? じゃあなハゲゴリ! 帰るわ!」
「お仕事頑張ってください、鉄男先生。失礼します。」
兄貴と姉貴も挨拶をしてついてくる。
「俺をその呼び名で呼ぶな! ……相変わらずお前ら姉弟は正反対だな……」
怒鳴った後呟くハゲゴリ先生。
姉貴の外面は完璧だからな。兄貴と比較するとそうなるのも無理はない。
「あ、皆帰るのかい? じゃ、姉さんにヨロシク!」
シュバッと手を顔の前に出す冬士さん。
「はーい。たまにはウチにも来なさいってお母さんが!」
姉貴が答える。
「うーん、まあ前向きに検討しておくよ。仕事に飽きたら行くかもしれないね。」
「仕事は終わらせてから行ってください!」
ハゲゴリ先生がすごい形相で叫んでいる。
頑張れ、ハゲゴリ先生。
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