ビショウジョニウム……?
「アレ、安全面は大丈夫なんでしょうね? そもそもどういう仕組みで……」
ポケーっと直矢を見つめていた姉貴がフッと我に返り澄也に詰めかける。
「まあアレ、実は高度に発達した科学文明の産物なんですよね。両足に不可視のアクセルが二つずつ―――上昇用と前進用なんですけど―――まあそれがついていて、ブレーキは柄を上方向にしならせる事でできて、体を傾けることで左折右折を行う仕組みです。アイツの運動神経はズバ抜けてるし、大丈夫でしょ。第一、文字通り神の加護がついてるはずですからね。万が一、億が一にも事故は起こらないですよ。」
「「神の加護?」」
姉貴とハモってしまった。
「さっき―――ああ、お姉さんは見ていないだろうけど、まあ僕らの上司の中で一番上の神、最高神がいたんですけど、彼がここでの事故を望んでいないということですよ。ここで事故でも起こしたらあなた達家族との関係は最悪。のんびりニマニマTSを見守っている場合じゃないですからね。最高神がTSを見たくて始めたのに、初っ端で事故でおじゃん、ってのはあまりにつまらない。間違いなく彼は事故が起きないよう予防策を敷いているはずですよ。」
「なるほどね……まあ今まで何度も魔法のような力を見せられているし納得できるわね。それに、今更どうこう言ったところで結果は変わらなさそうだし。」
姉貴の言う通りだ。でも―――
「詰まるところアレって機械なワケでしょ? 直矢って重度の機械音痴なんじゃ……」
スマホが使えない程度ならまだしも機械に触ったら爆発するなんて信じてるレベルだと流石に……
「あー、それなんだけどね。アイツはアレを機械とは認識していないんだ。高度に発達した科学は―――なんて言うでしょ? アイツは機械音痴だけどその原因は未知へ触れる恐怖と機械へのトラウマが主だからね。よく分からないが決まった命令を出せば決まった動きをする魔法の道具は何の問題もなく乗りこなせるのさ。僕からしたらどっちも同じだと思うんだけどねぇ。」
確かに。それにしてもトラウマとは……
「というか、神の力は制限されてるんじゃなかったけ?」
「選挙に関係なければある程度は使えるんだよね。まあ、有限のリソースを使うから闇雲には使えないんだけどね。」
「へぇー。」
てことは直矢は限られたリソースをわざわざ幸のために割いてくれたのか。いい奴じゃん。
「そういえば。」
ふと思って口に出す。
「見られたりしたらまずくない?」
箒で空を飛ぶ二人なんて、ニュースになりそうなもんだけど。
「ああ、そこも問題なし。光学迷彩付きだから、アレ。」
「へぇー。」
何でもアリだな。
なんて考えていると兄貴が、
「なあ、楓なんだろ?」
「え? ああ、うん。」
「元々そんなに強くなかったけど、さらにか弱くなっちまったからな! 危ないときは兄ちゃんを呼ぶんだぞ! 楓のためならいつでもどこでも駆けつける!」
「あー、うん、ありがとう……」
元々そんなに強くなかった……まあ兄貴を基準にしたらそうだけど、なんかちょっと傷つくな……
「しかし、どこでやりあうかなー。師匠の道場貸してもらえるといいんだけど。」
「もう結構遅いよ?」
もうすぐ7時を回るところだ。
「まあ、師匠なら大丈夫だろ! あーでも、師匠の前で女姿のアイツと戦うわけには……うぬぬ……」
「ああ、それなら冬士に連絡したら学校の道場貸してくれるって。」
と母さんが。
「おお、流石母さん仕事が早い! そしたら気合で5分で消化してその後腹ごなしに学校までダッシュだな! うおおおおお! 消化ああああああああ!」
「気合を入れても消化は早くならないと思うけど……」
「え、そうなのか? でも、大食いして腹膨れても腹に気合を集中させるとすぐ腹が引っ込むぞ? 師匠に習ったんだ!」
ナニモンだよ師匠……
「多分それは一部の人にしかできないと思う……」
「そうなのか? いやー、流石師匠とその一番弟子の俺だな!」
「うん、すごいすごい。」
褒めすぎると調子に乗るので適当に褒めたがこれが本当ならマジですごい。……兄貴の思い込みって可能性が高いが。
「だろ、すごいだろ!? ……あっ、消化するの忘れてた! うおおおおおおおおおおおお! 消化あああああああああああ!」
腹を抱え込む形で叫ぶ兄貴。正直うるさい。
「勇牙、もっと静かにできないの?」
と姉貴。妥当な注意だ。
「いや、声の大きさは気合の大きさと一緒だからな、悪いけど出来ねえ! うおおおおおおおお!」
「……静かにしなさい、勇牙?」
母さんが静かに注意する。
「いやだから……はい、静かにします……」
シュンとして小さな声で消化ーと言う兄貴。
母さんの後ろに鬼が見えた。怒らせると滅茶苦茶怖いんだよな、母さん。
流石この家族をまとめているだけある。
「よし、消化完了! なあ眼鏡! アイツに学校集合って連絡しておいてくれ! 俺は今から全力ダッシュで向かう!」
ダダダッ、と家を飛び出していった兄貴―――と思ったらこれまたダダダッと戻ってきた。
「楓、兄ちゃんが勝つところ、見に来てくれよな!」
そして返事も聞かずにまたしてもダダダッと駆けて行った。
「……見に行く?」
姉貴に聞くと、
「見に行かないのは流石に可哀そうよね……」
「だよね……」
学校まで行くの面倒くさい……いやまあ近くっちゃ近くなんだけど……
「こっちは連絡終わったよ。学校の位置は確か―――近いけど、歩くのは微妙に面倒な距離だね。」
「そうだね。」
徒歩20分くらい。歩けばすぐっちゃすぐなんだけど面倒ではある距離。
「そしたら僕の車でも出そうか。女性を歩かせるのは忍びないからね。」
そう言うと何やらジェスチャーをする澄也。すると澄也の前の空間に光の板のようなものが浮かび上がり、それに対してなにやら操作をし始める。
「えーと、ここをこうして……よし、問題無し! 流石僕、世界が変わっても問題なくコードを使用できた! こっそりコードを埋め込んでおいた甲斐があったなぁ。」
澄也が言うと同時に目の前に車が現れる。
車には詳しくないがなんだか近未来的なフォルムで見たことのない形をしている。
「ささどうぞお嬢さん方、お好きな席に。」
「今更驚かないけど、これも神の力ってやつ?」
澄也に質問すると、
「あー、厳密にいえば違うんだけど、ちゃんと説明しても専門用語が多くなっちゃうし……まあ、いわゆるゲームのチートコードみたいなものだよね。それをこの世界に事前に埋め込んでいたんだ。それをさっき起動したってわけ。この説明で通じるかな?」
「まあ、なんとなくは。ところでこれ誰が運転するの?」
(身体年齢)18歳未満しかいないけど。
「そりゃもちろん僕さ。さっきコードの起動の時に周囲の情報を確認したけど、警官とかはいなさそうだからこの格好で運転しても問題ないよ。運転自体は問題なくできるしね。」
「まあ歩かなくていいのは楽だし何でもいいや。よいしょっと。」
後部座席に乗り込む。
同じように姉貴も後部座席に、エディは助手席に乗り込んだ。
「じゃあ、出発!」
澄也の合図とともに車が発進した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「よし到着っと。」
澄也の運転はとても丁寧で乗り心地が良かった。
「どの道場も方向はこっちでしたよね?」
姉貴に聞く澄也。
「こっちで合ってるの?」
姉貴に聞く。
ちなみに俺は少し入ったことがある程度で中の間取りはほとんど把握していない。
「ええ。澄也さん、下調べでもしたの?」
「はい。力が制限される前に校内全体をスキャンさせてもらっていたので。」
「それにしては何も見てなかったみたいだけど。」
車降りてから何も見てないにもかかわらずにも方向を確信していたみたいだけど。
「あれくらいの情報量なら数秒ながめれば暗記できるさ。何せ天才、だからね! この天才っぷりについつい惚れてもらっても大いに構わないとも!」
フッフン、と胸を張る澄也。
すごいんだけど自分で言っちゃうのはどうなんだろうか……
「あらすごいわね。でも、それくらい私にもできるわ。簡単にうちの楓を誑かせると思わないことね!」
腕を組んで澄也を睨む姉貴。本当ならすごいな。あと惚れる可能性は無いのでご心配なく。
「お二人ともすごいですー! 頭がいいんですねー!」
ぴょんぴょんと跳ねて言うエディ。
可愛い。
「エディちゃん天使すぎる!」
「素晴らしい天真爛漫なビショウジョニウムだわ……」
澄也は飛び上がって喜ぶし、姉貴に至っては拝んでいる。
ビショウジョニウムとは一体……?




