ぞっとする様な、何ともぞっとしない話
冷や汗をかくお話です。
私はどこにでもいる普通の会社員だ。
普段は午前9時に出社している私だが、今日は会議に合わせて11時で良いと言われている。
前日の夜に目覚まし時計を調整する時には、顔がにやけるのを止められなかった。朝の忙しい時間帯をゆっくりと過ごせる上に、通勤ラッシュまで避けられるのだ。こんな幸せはないだろう。
駅に着きホームを見下ろすと、大勢の人で溢れかえっている。
私はぞっとした。
今日は大事な会議があるのだ。
冷や汗をかきながら周囲の声を拾ってみる。どうやら事故があった影響で電車が大幅に遅れているらしいが、次の電車はすぐに来るみたいだった。
何も今日でなくても良いではないか、と愚痴りながらも電車へと乗る。すし詰め状態の車内は普段の通勤ラッシュよりもひどいくらいだった。ひとまず会社に遅れないで済んだ事を喜ぶべきだと考え直す。
私は、ほっと一息ついた。
会社に着いた私は、午後から予定されている大事な会議の資料を用意していた。入念に準備を進めてきたのだ。失敗するわけにはいかない。
ふと資料へ目をやると、表紙にある代表者の名前を間違えている。
私はぞっとした。
冷や汗をかきながら会議までの時間を逆算すると、間に合うかどうかギリギリのタイミングだった。
私は大急ぎで資料を用意し直した。まさか修正テープで直すわけにもいかない。紙の資料なぞ時代遅れだと愚痴りながらも、なんとか会議までに準備を完了した。
私は、ほっと一息ついた。
会議は予定通り進行し、無事に終了した。私の資料はよく出来ていたと褒めてもらえた。感無量だ。
肩の荷が下り、トイレで用を足した後に鏡を見ると、知らない男の顔が映っている。
私はぞっとした。
冷や汗をかきながら目を擦って鏡を見直すと、ひどい隈が目立つ自分の顔だと分かった。今日まで毎日とても苦労してきたのだ。家に帰ったらゆっくり休もう。
私は、ほっと一息ついた。
自分の机に戻ると、パソコンに表示されている画面を見た。
作業中だった大事なデータが見当たらない。慌てて資料を用意し直した時に、何かしてしまったのかもしれない。
私はぞっとした。
冷や汗をかきながら、必死になってパソコンの中を漁り続ける。
やがて、ゴミ箱の中に誤って捨てられていたのを発見した。
私は、ほっと一息ついた。
仕事を終えた私は家路に着いた。
今日は冷や汗をかく事が多かった気がする。とても疲れているようだ。
大事な会議を終えた私は、ビールを飲んで気分よく布団へと入る。
――手を伸ばしながら、目覚まし時計のスイッチをオンにした。
今日は何だか疲れたし、しっかりと休もう。
私は、ほっと一息ついてから目を閉じた。
睡眠不足のせいで簡単な失敗をするなんて、何ともぞっとしない話だ。
ぞっとしないお話でした。お目汚し失礼致しました。
余談ですが、私は【ぞっとしない】という言葉の使い方を正しく理解していませんでした。日本語って難しいですね。
目覚まし時計には気を付けましょう。