序 弐ノ三
痛みはない。
未だ五感の悉くを喪失している少女は、この特異な状況を知る手段すらない。
声の主は、その手を……否、実体があるのかすら判別できない中で、少女の露出した血塗れの下腹部に、突き立てた指を思わせる窪みが4つ顕れ、間もなくその皮膚を、肉を穿った。
出血は僅かだった。
それが、少女の失血が常軌を逸しているせいか、将又、常軌を逸した奇跡を目の当たりにしているのか。
言葉遊びに興じようと、応じる者などこの場にはいない。
「さてと。
置き場所にも個性が出るっぽいんだけど、君はどこかなあと……」
突き刺さった五指は、少女の腹部を右に左に、浅く深く跳ね回る。
何かを探しているような口ぶりとは裏腹に、それらは余りに淀みなく、そして子供の悪戯の様に無軌道だった。
やがて飽きたと言わんばかりに、唐突に動きが止まると、5つの蠢きは程なく一点に向かい収束し始めた。
「ああ、やっぱりここか。
お邪魔するけど、仕方なくだよ?
私だって嫌なんだからマジでさあ。」
その一点、即ち少女の子宮に異物が侵入する。
正規の門を破ることなく、侵し難きものを冒す指は、先ほどとは打って変わり、慎重に、儚きものを愛でるかの様に優しく肉壁を押し進むと、やがて硬質の物体を握りしめた。
「うわっ、マジでありやんの。
しかもこれ、中に全部揃ってんよねえ。
24だぜえおい。
24個も無理くりぶち込むとか、これだから下位世界の王ってのは……」
声の主は深い溜め息を、その音だけを発すると、手にした硬質を力一杯に少女の身体から引き抜いた。
瞬間、少女は弓反りになりその場に倒れ込んだ。
「ぐっ……おおおおお……ああああああああ!!」
全く意図せず、予兆もなく返却された痛覚は、容赦なく少女を蹂躙し、彼女は本来の声色とは似ても似つかぬ獣然とした慟哭を上げ、地面を転げ回る。
「やっぱりこれが悪さしてた感じ?
痛いっしょ?
もうちょい辛抱ねっ。」
血と涙でぼやけた少女の視界には、鮮やかな赤に染まった手を掲げる、軽薄そうな男の声で心配する女が立っていた。
そして、天に向かい伸びた手の先で、拳大の直方体の金塊が鈍い光を放った。