2(END)
「では、三名に沙汰を言い渡す。一度しか言わぬので、よく聞き、噛み締めるよう」
この方の下す沙汰であれば、どのようなものでも受け入れられる。
僕らはただ黙して、陛下の言葉を待った。
「まず、使用人のマルグリットとリア」
「はい」
「は、はい」
「その方らには――我が娘付きの世話人の任を命じる」
「はい……はい?」
な、なんだ……今、何て言った?
珍しくキビキビとした口調で答えていたリアも、思わず聞き返してしまっていた。
「続いてルーフェン・ゴート」
「はい」
「その方は、此度の一件の主犯であり相当な重罪であると判断する」
「心得ております」
「よって終身の沙汰として――我が娘の紋章官の任を命じる」
「……え?」
思わず耳を疑った。同時に、後ろで士官が警棒を取り落とす音が聞こえていた。
「こ、国王様、それはいったいどう言う――」
咄嗟の出来事に、僕は無礼をかなぐり捨てて顔を上げてしまう。そこで目の前に座る陛下のお姿を目にして、思わず絶句した。
「――おいおい、俺様は『一回しか言わねぇから良く聞け』っつったぞ」
「あ……あ……あぁ……」
声にならない声が口から漏れる。
「な、何? どうしたのよルーフェン……?」
「ルーフェン様……?」
頭を下げたままのリアとマルグリットが、僕の様子を心配するように口にする。
「あああ、あな……あな……あなたは……!」
「――生きてて良かったなボウズ。あいつに感謝するんだ」
目を見開いて歯をガチガチと震わせる僕を見て、王冠を被った『あの嵐の日の大男』は満足したように歯を見せて笑うと、あの時と同じ調子でそう言い放っていた。
ボロボロになた召し物を急造で取り換えて、僕は姫様の私室の扉の前へ立っていた。両脇には《百合紋》が縫い付けられた姫様付き用のメイド服を着こんだリアとマルグリット。マルグリットは随分と久しぶりのメイド服姿だったが、なんだかんだやはりこれが一番しっくり来るように思えた。勿論、ドレス姿もとても映えるものではあったが。
「皆さま、一晩ぶりでございます」
扉の前ではベルナデットが、昨日の疲れなど微塵も見せない様子で恭しく一礼をしてみせた。疲れどころか、昨日の切り傷も全く見えないような気がするが……気のせいだろうか。きっと、ちょうど服に隠れて見えないのだろう。そういう事にしておこう。
「正直……今でもどうしてここにいるのか分からないんだが」
沙汰を受けてから、とんとん拍子でここまで来た。僕やマルグリット達にぴったりの衣装も既に用意してあったし、なんなら僕の深緑のジャケットにはあの飾りボタンまで初めから縫い付けてあった。
「まるで前々から用意してあったような――」
そこまで口にして、いつかのようにベルナデットがその人差し指で僕の口を塞いだ。氷のように冷たく、花のように優雅な香りが鼻孔をくすぐって思わずどきりとした。
「姫様がお待ちです。詳しいお話は後程」
そう前置いて、彼女はゆっくりと扉を開いた。
姫様の部屋は王宮の最上階。もっとも日当たりの良い部屋に設えられていた。大きなガラスが壁一面を覆い、雲の切れ間から時折降り注ぐ太陽の恵みを燦々と部屋の中へ取り入れる事ができるようになっている。そのガラス張りの前に、彼女は立っていた。
「ようこそ、お出で下さいました」
軽やかな笑みを言葉の端に添えて、姫様の声が耳に響いた。陽の光を逆光に受け、ここからではその輪郭しか分からない。しかし、それが確かに姫様である事は疑いの余地もないものだ。
「シルフェリア様……その……僕らは……僕は――」
何と口にしたらよいか分からず、しどろもどろと単語だけを発する。なんて情けないんだろうと思っても、口から思うように言葉が出なかった。
「あの……私、本当に良いんでしょうか……?」
むしろ僕なんかよりも、まだしっかりと答えてくれたマルグリットに、姫様は静かに首を横に振った。
「むしろ、どうしてダメだという理由があるのですか? 確かにあなたは身分を偽ってらっしゃいました。しかし、わたくしとお友達だったあなたは、嘘偽りでは無いはずです。オードリィ・ミュールと出会う前に、わたくしはマルグリットと出会っていたのですから」
彼女がそう口にすると、マルグリットはどこかこそばゆそうにして頬を掻いた。
「ルーフェン様――あなたも同じです」
「僕も……ですか?」
姫様は今度は小さく頷きながら、ゆっくりとした足取りでこちらへと歩いて来る。
「あなたはわたくしとの約束を守って下さいました。だったらわたくしは、あなたの約束が果たされるように取り計らわなければなりません」
そう言って近づいて来た彼女は、やがてその表情がハッキリ見える距離までやって来ると、ニッコリと満面の笑みを浮かべて見せた。
「――二度と『今までの生活』に戻れると思うな。その命が尽きるまで、せいぜいこき使ってやるよ」
「は……ははっ」
引きつったようながら、思わず笑みが漏れた。
「やっぱ、姫様の事になるとあんた気持ち悪いわよ……」
汚らしいものでも見るかのようなリアの視線を無視して、僕は彼女の足元に膝を折る。姫様はそれを満足げな表情で見つめると、ちょうど差し込んだ太陽の光の下で純白のドレスの裾を翻した。
「Demain il fera jour.――この国の言葉でしたか?」
光の中で輝く姫様を前に、ベルナデットがまぶしそうに眼を細めて見せた。僕も同じように彼女の姿を仰ぎ見ると、あまりのまぶしさに手で視界を覆いながらも、指の隙間からその場景を捉えつつ答えた。
「ああ――きっと明日は晴れ渡る」
雨上がりのクールドリヨン――了
最後までお読みいただきありがとうございました。
まだ書き方のおぼつかない、つたない小説ではございましたが、こうして後書きまでお読みいただけていることにただただ感謝を申し上げます。
よろしければ率直な感想などを評価という形でいただけましたら、今後の励み、そして改善点への意識へと変えていきたいと考えております。
次回作の開始時期はまだ未定ではありますが、この広大な小説の海の中で再びお会いできる日を心より願っております。
最上のどか




