序
炎が夜空を赤く染めている。
朝焼けのほのかな明るみとも、夕焼けの名残惜しさを感じる茜色とも違った、禍々しい明るさで北東の夜空を焦がすのは、大蔵からの炎だと帳内から聞かされていた。
季節は冬だというのに、まるで夜空を染め上げる炎に焼かれているかのように寒さは感じない。
青海の脳裏には、この乱に関わった様々な人物の顔が浮かんでいた。
それぞれが罪深く、しかし犯した罪よりもなお重い贖いを強いられ、消されただろう命の事を思うと青海の胸は押し潰されるように痛んだ。
『政とはそういうものだ』
いつかの、絶望と悲しみの淵に追いやられた耳元で囁かれた言葉が、今再び言霊のように青海の身も心をも絡め取ろうとしているのを感じ、ぞわり、と背筋が震えた。
後に「星川皇子の乱」と呼ばれるこの反乱の終幕を、青海皇女は母方の豪族葛城氏の高円のひとつである角刺宮で、成す術なく炎に染め上げられる夜空を見上げながら知った。
けれどこれが全ての幕引きではない。権力というものを血眼になって手に入れようとする者同士が繰り返す戦の一つでしかないのだ。
そんな些細な一つの終幕でさえ、今の青海にとっては己の無力さを痛い程に突き付けられた出来事であった。