2 それぞれの行動
「一攫千金ってお前、そんなこと出来たらとっくにやってるよ……」
ティルの提案は、既に自らの思案の中に含まれていた。思案というよりは、妄想や嘱望といったものだろうか。
ガルアにとって金を稼ぐこと、ましてや一攫千金などは、夢のまた夢の話であった。
「そんなこと不可能だってことぐらい、お前もよく理解してるだろう?何故今になってそれを言うんだ?」
ガルアは、不可能で不可解な提案をしてきたティルに問い返した。
するとティルは、自分の言ったことが不可能なわけが無いというように胸を張って答えた。
「ふっふっふっ。不可能なんてことは無いのですよ!ガルアさん!ガルアさんならもう候補は浮かんでいるでしょう?」
ティルの発言に、大きくため息をつくガルア。
「まさか……カジノにでも行くっていうのか?」
「そうです!なーんだ、わかってるじゃないですかー。」
お茶目だなぁガルアさんは。と、ティルが朗らかに続ける。
「カジノに行って!勝負に勝てば!僕らは晴れて大金持ちですよ!これは逃す手はないでしょう?」
まるで今にもカジノに飛び出して行きそうな勢いでまくし立てるティル。
そんなティルを落ち着かせるような低いトーンで、ガルアが言う。
「お前なぁ……カジノでそう簡単に勝てる訳がないだろう。勝てたら苦労しないよ……」
「えっ……いやでもでも、ガルアさんなら絶対に勝てますよぉ!」
ガルアから否定的な意見が出ても、負けじと反論するティル。
「どうしてそんな風に思うんだ?」
「えっと……そんな風に、とは?」
「だから、ティルは何故俺がカジノで絶対に勝てるって思うんだ?」
急な質問に、一瞬戸惑うティル。
「えっ、えーっと……ほ、ほら!ガルアさんって力強いし、判断力とかありますし!」
「腕っぷしはカジノに関係ねぇ。判断力なんてもんがあったとしても、運がなけりゃ意味ねぇだろ?」
なんとか理由を挙げても、すぐに反論されてしまう。
「うぐ……で、でも……ちょっと見るぐらいならいいでしょう?どんな感じか分かると思いますし。」
「ちょっと見るぐらいってお前……なぜそんなことしなきゃいけないんだよ……」
「そんなことは分かってます……それでも……」
「それでも、ガルアさんは勝てると思うんです……いつでも冷静で、なおかつ常に周りに気を配れるガルアさんなら……」
ティルの思いがけない言葉にガルアはため息をつき答える。
「わかったわかった。そこまで言うなら、まぁカジノに行ってやらんでもない……」
「おおっ!本当ですか!?それじゃあ早速行きましょうよ!善は急げって言いますし!」
「言っておくが、見るだけだからな!やらねぇからな!賭け事なんて!」
わかってますって〜。と、楽しげに答えるティル。
2人の堕民は路地裏を抜け、王国の中心街_フロウリアへ向かう。
リグネル最大にして、国王が直々に運営するカジノ_777に向かうため。
◆
警備団の詰所に鳴り響く電話。面倒くさがりの団員が誰も電話に出ないため、お前ら電話ぐらい取れよ。と一喝して、メイギスが電話を取る。
「はいはいこちら警備団団長のメイギス……って、総長でしたか……」
総長というワードを聞き、すぐに姿勢を正す団員達。そんな団員達を一瞥して、メイギスは会話を続ける。
「それで、総長がこんな辺鄙な警備団にどのようなご要件で?」
半分自虐を込めた口調をとるメイギス。そんな団長の姿を見てか、総長に恐れおののいたか、そーっと詰所から出ていく団員達。
1人の団員が、別の団員に話しかける。
「おい……総長直々に電話って……ヤベェんじゃねぇか?」
話しかけられた団員も、声をひそめて答える。
「ヤベェもなにも、メイギスさんの口調……あれじゃどう転んでも大騒動間違いナシだぜ……」
「おいお前ら!なにを喋っている!訓練に集中しろ!」
「そんなこと言ってもよぉ、オメェ、あんな険悪な電話を聞いてから、訓練なんてまともに出来るわけねぇだろ?」
「……そんなこと百も承知だ!とにかく紛らわす!この険悪なムードを!!」
「いやいやそんな無茶な……大体あの……」
「はああああああああああああ!!!?俺がだとぉおおおおおお!!?」
突然詰所から、怒鳴り声が響く。
一瞬怯む団員達。だがすぐさま事態を把握するため、耳を澄ませる団員達。
「なぜ俺が……いやそんなもん俺のせいじゃ!!……ああもう……わかりましたよっ!!畜生!」
罵倒を浴びせ、電話を切るメイギス。すぐさま詰所内に駆け込む団員達。
「メイギスさん!いったい何が……」
「総長になんて言われたんですか!?」
質問を投げかける団員達を鎮めるため、落ち着け!!と、一声上げてから、メイギスはゆっくりと話し出す。
「どうやら……俺は暫く活動休止らしい。」
メイギスが言った言葉に、驚きの色を隠せない団員達。
「なんで……メイギスさんが?」
「そうだそうだ!サボってる俺達ならまだしも、なんでメイギスさんが休止されなきゃならねぇんだよ!」
「まぁ落ち着けお前ら。……どうやら上は、俺らの管轄内の商店街で起こってる盗難事件に一切の進捗が無いことから、担当の団長を変える、っていう判断をしたようだ。」
「そんな……そんなの、メイギスさんは悪くないじゃないですか!」
「くそっ!なんで司令部の奴らは……自分たちは動かないくせに……」
「まぁまぁ、そんな訳だ!お前らがくよくよしても仕方ねぇだろ?それより、さっさとその盗賊を捕まえりゃ、俺だってすぐに戻って来れるさ。」
メイギスの言葉に、団員達は皆感嘆の声を上げる。
「そうか……そうですよね!団長!」
「俺ら!すぐに盗賊を捕まえて!団長がもどってこれるように抗議します!」
「よし!こうなりゃお前ら!全力で訓練だ!」
団員の中で生まれた一体感に安心するメイギス。
「それじゃ、そんな訳だから、俺は暫く休むことになる!がんばれよお前ら!」
「「はい!!」」
団員達の返事を聞き、自らの家へ戻ろうとするメイギスに、1人の団員が問いかけた。
「あのぉ、メイギスさんの代わりの団長って、どんな方でしょうか?」
「ん?……さぁ?俺も聞いてねぇな。でもまぁ、よっぽどのエリートさんだろうなぁ。」
自らの家に着いたメイギス。装備一式を納戸にしまい、ベッドに寝転ぶ。
「しかし……休止の間……何をしようか……」
暫く考えを逡巡させた後、一つの結論に至った。
「久しぶりに、賭けにでも行ってくるかぁ……警備団やってると、そーゆーの厳しいからなぁ……」
そうしてメイギスは、フロウエルに向かう準備を始めた。