離れ小島のメイドたち
力仕事を終え、メイドのミカは夜空に向かって伸びをした。
「あーーーっ、疲れた」
「重かったよねぇ」
並ぶように立ち、しみじみと言ったのは、やはりメイドとして付き合いの長いクミだった。クミは大きな瞳に表情が出る可愛らしい少女で、普段は頼りなくのんびりとしている印象があるが、割としっかりしている。
「コモドドラゴンを捕まえるなんて、よくやったよなぁ」
メイドたちの本拠地は、島の奥に建設された新しい城である。メイドたちは太陽の光を弱点としていたが、夜に特別強いというわけではなく、夜目も普通の人間並みである。力も弱い。
城を作るのは大変だったが、メイドたちが『ご主人様』と呼ぶ男の執念により、ようやく完成を見た。
「抵抗しなかったからよかったね」
「まぁな。ずっと動かなかったからな」
天守閣を見上げる。天守閣があるのだ。よくも作ったものである。
「コモドドラゴンが『ニャーニャー』って鳴くって、ちょっと面白いよね」
「島で、他に見たことあるか?」
ミカが尋ねると、クミが少し首をかしげた。
「コモドドラゴン? ううん。はじめて見た。珍しい生き物だから、知恵があるやつかもって思ったんでしょ?」
「まぁそうだな。クミ……捕まった奴、『ご主人様』が『御前様』に渡すんだよな」
メイドの仕事は『ご主人様』への奉仕である。『ご主人様』はなぜか、『御前様』と呼ぶ得体の知れない存在にひれ伏している。
「うん。そう言っていたね」
夜が明けるまでが、メイドの勤務時間である。ミカとクミは広い庭園をぶらぶらと歩いていた。つまり、さぼっているのだ。
「つまり……美味いんだろうな」
「そうかも……それに、珍しいんだよね」
「ああ……島には他に、一匹もいないかもしれないな」
ミカはクミを盗み見た。クミは盗み見るまでもなく、瞳をきらきらと光らせてミカを見つめていた。
――考えることは同じだな。
「でも、コモドドラゴンだよ」
「抵抗しないんだよな」
「うん」
ミカは笑った。返事をしたクミが、あまりにも嬉しそうに見えたからだ。