表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆剥太郎と闇メイドの島  作者: 西玉
島のはじまり
1/33

天才科学者ハウスベルストの邂逅

不思議な設定の不思議な物語りを目指します。

気楽に読んでいただけたら幸いです。

 天才科学者ハウスベルストは、秘密研究所をかねた船と共に、無人島へ打ち上げられた。遭難したのである。

 幸いにも多くの機械装置は、発電機と共に無事だった。なお幸いなことに、ハウスベルストは本物の天才だった。

 無人島だったが、数多くの実験動物が一緒に流れ着いた。他の船員はいなかった。研究仲間も、召使も、失ってしまった。

 ハウスベルストは装置を洞窟に持ち込み、研究を続けた。むしろ、遭難する前よりも集中することができた。食べ物は大量の保存食がともに流れついていた。研究以外にすることがなかったのだ。


 名前を呼ばれてハウスベルストが振り向くと、後ろ足で立ち上がった猫が研究用の白衣の袖を引いていた。

「どうした? 逆剥太郎」

 逆剥太郎と呼ばれた猫は、実験用の動物である。無人島で研究に没頭しているといっても、人が恋しくなかったわけではない。むしろ、会話する相手を欲していた。

 研究はほぼ完成していた。

「博士、罠になんかへんなものがかかっていたニャー」

 猫は、立ち上がっていた。後ろ足が発達した猫であれば、立ち上がること自体は難しくない。さらに猫は、人間であれば赤ん坊でも穿けまいと思われる、小サイズのデニムのズボンをサスペンダーで吊っていた。靴を履くのは足の構造上、不可能に近い問題だ。逆剥太郎は、しっかりと靴を履いていた。

「罠? 私は仕掛けた覚えがないが……」

「なら、博士がつくった友達のだれかが仕掛けたんだニャー。仕掛けたのは誰か解らニャいけど、何かへんなものがかかったのは確かだニャー」

 研究そのものがほぼ成功していたということは、誰がやっても同じ結果が出ることを意味する。再現性が高いということが、研究が成功していることを示す最大の証である。二本足で歩き、話すことができるのは、逆剥太郎だけではなかった。すでに多くの生き物が会話を楽しんでいる。

 ハウスベルストすら、実験体をすべては把握できていなかった。逆剥太郎は見事な成功例だ。なにしろ、自我を持っているのに、人間のハウスベルストを襲うどころか、生活を共に楽しもうとしているのだ。

「で、誰がかかっているんだ? 『へんなもの』と言っていたな」

「うんだニャ。へんなものだニャ。博士がつくったのかニャ?」

 考え、話すことができるといっても、所詮は猫だ。知識の絶対量が不足している。逆剥太郎が知らない生き物は無数にいるだろう。だからといって、逆剥太郎が間違っているとは限らない。逆剥太郎が見たことも無い動物を、いつのまにか作ってしまった可能性は否定できない。ハウスベルストが知らない間に、知恵を持った実験動物が装置を使用してしまった可能性もあるのだ。

「見てこよう。どこだい?」

「怪我をしていたから、ゴンちゃんがつかまえて檻にうつしたニャ」

 ハウスベルストは、逆剥太郎が『ゴンちゃん』とよぶ猛獣を思い出した。確かに怪我をした相手なら、どんな相手でも引けは取るまい。

「よく、ゴンザレスが食べてしまわなかったな」

 装置を一時止め、ハウスベルストは逆剥太郎を抱き上げた。のどがごろごろと鳴り出した。あくまでも猫なのである。肩に乗せた。

「さすがにゴンちゃんでも、食べたくなかったみたいニャ」

 ――一体……なにものだ?

 逆剥太郎が『へんなもの』と表現したことより、大食漢のゴンザレスが食欲を示さなかったことのほうが奇異だった。

 ハウスベルストは逆剥太郎に案内されるまま歩いていくと、いまではほとんど使用されなくなった、実験動物を隔離する檻の山に行き当たった。ほとんど使用されなくなったのは、生きていた実験動物はすべて実験に使用してしまったからだ。そのうちの一匹が、逆剥太郎である。

「ここだニャ」

 逆剥太郎が示した檻の中には、鬼がいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ