家族の食卓
玄関に立った真治がチャイムを押すと中からマルの吠える声が聞こえた。
「ワンちゃん、飼っていらっしゃるの?」
島崎さんの表情がパッと明るくなった。
扉が開くと亜希子の後ろからマルか飛び出した。
真治に飛びついたと思ったら、すぐ隣りに立っていた島崎さんにも尻尾を振った。
「島崎さんが犬好きなのは、マルにもわかるんだな。」
真治は目を細めてマルと島崎さんを交互に見た。
「まぁ、何て可愛いワンちゃんなの?マルちゃんって言うの?」
島崎さんはしゃがんでマルを撫で始めた。
「本当に可愛いわねぇ。白くていい毛並みねぇ。」
そう言いながら何度も何度も島崎さんはマルを撫でていた。
マルも島崎さんをペロペロ嘗めたり、お手をしたりと忙しかった。
「うちの仔もマルちゃんみたいに可愛いかったのよ。本当に可愛いかった……。」
島崎さんの目が涙でキラキラと光っている。
「島崎さん、外は寒いですからどうぞ中へお入り下さい。」
亜希子が島崎さんを促し中に招き入れた。
「こんにちは!」
元気にあかりも島崎さんに挨拶した。
「こんにちは。お名前は?」
「あかりです。」
人懐っこいあかりはにこにこしながら島崎さんに答えた。
「ずいぶんしっかりとしたお嬢さんね。」
島崎さんはハキハキとしたあかりに少しびっくりしたようだ。
マルが側で嬉しくてクルクルと回っている。
「今晩はシチューをたくさん作ったので島崎さんもどうぞ召し上がっていらして。」
亜希子の申し出に島崎さんも素直に従った。
「何だか突然伺ってお世話になりっぱなしで……でもご馳走になりますね。」
その晩は久しぶりに藤堂家では家族が揃って食卓を囲んだ。
島崎さんも不思議なほど自然にそこに溶け込んでいた。
「あかりにはおばあちゃんがいなかったんですよ。良かったらこれからも島崎さんと時々お会いしたいわ。」
別れ際に亜希子が言った。
あかりの祖母は二人ともすでに他界していた。
「私で良かったら喜んでそうさせて頂くわ。」
島崎さんはにこやかに答えた。
数時間前の思いつめた様子だった島崎さんはもう、そこにはいなかった。
「島崎さん、また遊びに来てね!マルも島崎さんが大好きだから。」
あかりも嬉しそうに島崎さんに手を振っていた。
娘や妻の笑顔を見て真治は思った。
僕は今日、島崎さんの命を救ったかもしれない。でも、僕も島崎さんに救われたんだ。
家族との関係が冷え込んでいた真治に島崎さんがもたらしたもの。
それは家族の笑顔だった。
「マル、お前もありがとな。」
足元にいたマルの頭をくしゃくしゃと撫でた。
マルの嬉しそうに見上げた顔を見て真治は微笑んだ。




