幸せを見つけたい時
新しく家族の物語を書き出しました。
よろしくお願いします。
朝の光の中で
長い睫毛をふせて眠る少女。
この少女の名はあかり。
私の大切な娘である。
もうすぐ5歳のお誕生日を迎えようとしている。
季節の変わり目に時々喘息の発作を起こすあかり。
夕べも発作に見舞われた娘を一晩中看病して私自身も疲れ果ててしまった。
少し眠るか……。
娘の隣りに横になると一気に眠気が襲ってきた。
そんな私の顔にふさふさとした毛玉が触れた。
「ううん……。
あれ?マルか。」
毛玉と思ったのは愛犬マルだった。
マルはいつでも私の傍で丸くなって眠る。
マルの毛は白くて柔らかくてフワフワだ。
「マル。」
声をかけると真っ黒な瞳がこちらを見た。
ポメラニアンのマル。
一人っ子のあかりと兄弟のようにして育った。
マルなりにあかりのことを心配していたのかもしれない。
マルは私とあかりの様子を見てやっと安心して自分も眠ろうとしていた。
マルの寝息が聞こえる。
静かだ……。
朝の5時半。
小鳥の囀りが聞こえ、新聞配達のバイクの音が家の前を通り過ぎる。
そろそろ街が動き出す時間だ。
私は少しでも眠っておきたいと思い、瞼を閉じた。
少し空気がヒンヤリとする。
もう、10月も末だし……。
布団の端を首まで引っ張って眠ろうとした矢先。
「お〜い、コーヒーの粉がきれてるぞ。亜希子、起きてるか?」
あかりの寝室に近づいてくる足音がして夫が扉の向こうから顔を出した。
マルがけたたましく吠えてしまい、私も飛び起きた。
「やめて下さい。大きな声を出すのは。あかりが寝ているんですよ。」
いかにも何も考えていない夫のしそうなことだ。
夕べあかりの看病にてんてこ舞いな私を置いてさっさと自分のベッドに行ってしまった夫。
夫も体を休めなければ翌日の仕事に障ることは私にもわかる。
ただ……
「あかりは大丈夫か?お前も大変だな。」
という自分を気遣う言葉くらい聞きたかった。
そんな私の気持ちもお構いなしに夫の言葉は続く。
「今日は早く出るんだから、お前も朝ご飯の支度ぐらいしてくれよ。」
「わかったから……ちょっと待って。」
亜希子はフラフラと布団から出てパジャマの上にカーディガンを羽織った。
片道会社まで1時間半。
夫も大変だと思う。
だけど……
だけどたまには夫からの優しい言葉が欲しいと亜希子は思うのだった。