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公爵に捨てられた侍女の子供ですが、猫として生きていきます  作者: りな


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ロケットを見た使用人

その日は、祭りだった。

男の子は私を抱き、供を連れて町を歩いていた。

人の波。

屋台の灯り。

甘い匂い、脂の匂い、土と酒の匂い。

――その中で。

私は、懐かしい匂いに気づいた。

気づいた瞬間、

身体が勝手に動いた。

「待って!」

男の子の声が聞こえたが、

私の身体は、それを受け付けなかった。

私は走り、とある店の前で立ち止まる。

……ここは?

次の瞬間、影が覆いかぶさった。

激しい衝撃。

「ギャン」

何が起きたのか分からない。

目の奥で火花が散り、腹と背中に遅れて痛みが来る。

壁に叩きつけられたのだと、あとで分かった。

酒臭い匂い。

「最近、見ねぇと思ったのに、まだいやがったのか」

低い声。

「……あん時、しこたま蹴って川に流したのによ」

――今、何て言ったの?

「僕の猫に、何をするんだ」

男の子の声だった。

駆け寄ってくる足音。

酒臭い匂いは、男の子の姿を見て後ずさる。

貴族だと、すぐに分かったのだろう。

「……何にもしてねぇ」

匂いは遠ざかった。

私は、男の子に抱き上げられる。

温かい。

けれど、私は目を閉じたまま、

開けることが出来なかった。


私は、公爵の家で、しばらく動けなかった。

身体が言うことをきかない。

骨が、やられていたのかもしれない。

けれど。

母が、死んだということは、わかった。

あの言葉。

あの酒臭い匂い。

川に流した、という声。

――あれを、母と同じ目にあわせたい。

どうすれば、できる?

……父?

あのロケット。

首に巻きつけていた、写真の入ったそれ。

あれを見れば、何かわかるかもしれない。

私は、男の子の部屋に滑り込んだ。

誰もいないのを確かめ、引き出しに爪をかける。

重い。

なかなか、開かない。

やっと隙間ができて――

……あった。

詰め込まれた小物に引っかけて、引き寄せようとする。

けれど、うまくいかない。

ロケットは、床に落ちた。

――早く。

焦る。

だが、ロケットは固く閉じたまま、どうしても開かない。

そのとき。

扉が開いた。

使用人だった。

視線が、床のロケットに落ちる。

一瞬で、顔色が変わった。

何も言わず、使用人はそれを拾い上げ、踵を返す。

そして、走った。

向かった先は、別邸。

公爵夫人を、連れてくるために。

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