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公爵に捨てられた侍女の子供ですが、猫として生きていきます  作者: りな


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78/90

剣を習う許可が出ました

私とヴァレンティナ様は、公爵の執務室を訪ねた。

中では、公爵と父さんが並んで座り、何やら真剣な顔で書類を読んでいる。

「今、よろしいでしょうか」

私は扉を軽く叩いて、そう伺った。

「ああ、アリア。構わんぞ」

公爵が顔を上げて言う。

よし。今だ。

「私も、剣を習いたいと思います」

思い切って、そう告げた。

一瞬の沈黙。公爵は私を見てから、ふう、と小さく息を吐いた。

「……別に、必要ないのでは?」

やっぱり。

「それより、淑女教育のほうが大切だろう」

そう言って、公爵はヴァレンティナ様へと視線を向けた。

「ご心配なく」

ヴァレンティナ様は、にこやかに微笑む。

「淑女教育は、順調ですわ」

……そうなの?正直、最近あまり褒められた記憶は無いのだけど。

「アリアは、この先どのような人生を歩むか分かりません」

ヴァレンティナ様は、落ち着いた声で続けた。

「自分の身を守る術は、あっても悪くはないでしょう」

……おお。これは、完璧な援護射撃。

私は内心、全力で頷いた。

「もちろん」

にこり、と笑みを深めて、ヴァレンティナ様は付け加える。

「その分、日常生活においては、きっちり淑女教育を進めますわ」

……あれ?今、何かとても重要な一文が、さらっと混ざりませんでした?

公爵は少し考え込むように腕を組み、やがて言った。

「……あと半月程度か。まあ、経験も大切だな。良いだろう」

やった!

思わず表情が緩みかけた、その瞬間。

「待ってください」

低く、しかしはっきりとした声。父さんだった。

「僕は反対だ」

え。

「可愛いアリアが、怪我でもしたらどうするんだ」

……えっと。問題は、そこですか?

執務室の空気が、微妙にずれた。

「……それは、過保護すぎるのでは?」

公爵が、呆れたように言う。

だが、父さんは一歩も引かない。

「全く、過保護ではありません」

言い切った。微塵の迷いもなく。

……この人、本気だ。

「剣なんて危険です。転んだらどうするんですか。指を切ったら?打ち身でもしたら?アリアは、僕の大切な娘なんですよ」

後半、論点が完全に迷子だった。

「……」

公爵は、深くため息をついた。

「保護観察として」

その沈黙を切り裂くように、ヴァレンティナ様が言った。

「私も、アリアと一緒にいたしますわ」

「……そうなのか?」

公爵が、少しだけ戸惑った声を出す。

だが。

――文句はありませんよね?そう言わんばかりの、完璧な“圧”を放つヴァレンティナ様に、誰も、それ以上何も言えなかった。

「……なら、僕も――」

父さんが、なおも食い下がろうとする。

「おまえは仕事だ」

公爵が、呆れた声で即答した。

「……ですよね」

父さんは、肩を落とした。

……父さん。本当に、仕事頑張って!

私は心の中で、そっとエールを送った。

こうして。

私の「ちょっと剣を習いたいだけ」の願いは、父さんの過保護という大きな壁を乗り越え、予想以上に重たい条件付きで、正式に認められたのだった。

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