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公爵に捨てられた侍女の子供ですが、猫として生きていきます  作者: りな


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73/90

授業の後で

短いのか、長いのか。

 正直、よくわからない授業が、ようやく終わった。

「少し、お時間をいただいても?」

 ヴァレンティナ様が、穏やかにそう言って、家庭教師へ視線を向ける。

「もちろんです。どれだけでも」

 ……先生。

 今の返答、少しおかしくないですか?

 それに。なんでそんなに、嬉しそうな顔をしているんでしょうね。

 私は、そっと少年のほうを見る。

 ――授業は、終わった。

 つまり。宿題が出る前に、逃げるなら――今だ。少年も、同じことを考えたらしい。

 私たちは視線を合わせ、無言でこくりと頷いた。

 次の瞬間。私と少年は、走った。少し異世界に行っていた大人二人を背に、廊下を駆け抜ける。

 向かった先は、書庫。扉を急いで開け、滑り込むように中に入り、静かに閉めた。

 しばらく、何も言わずに呼吸を整える。肩が上下して、息が少しずつ落ち着いてきて。

「……やった」

 私が小さく言うと、

「やったね」

 少年も、同じくらい小さな声で返した。

 次の瞬間。

「あはははは」

 どちらからともなく、笑いがこぼれた。

 声を抑えようとして、でも抑えきれなくて。二人で、しばらく、くすくすと笑い続けた。

「今日の授業、面白かったね」

 笑いが落ち着いたあと、少年が、少し弾んだ声で言った。

 ……そうかな?私としては、大人たちの熱弁を、延々と聞かされていただけ、という印象なのだけれど。

「あんなふうに、いっぱい話せるように、僕もなりたいな」

 きらきらした目で、少年はそう続けた。

 ……何に、そこまで惹かれたのか。

 正直、まったくわからない。知識?話術?

 それとも――大人なのに、大人らしくない、あの熱量?

 もしかしたら、その勢いに当てられただけなのかもしれない。

 うっとりと余韻に浸る少年を、私は少しだけ冷めた目で、眺めていた。


――その頃。

 授業部屋では、まったく別の意味で、静かな会話が交わされていた。

「昨日のことなのだけれど」

 ヴァレンティナは、用意された紅茶のカップを置きながら、何気ない口調で切り出した。

「アリア、暗算で引き算を、すらすら答えていたのよ」

「……え?」

 一瞬、家庭教師――エリオットの動きが止まった。

「いえ……失礼ですが。アリアには、まだ足し算しか教えていないはずです……」

 明らかに、狼狽している。

 ヴァレンティナは、声を落とした。

「では――自分で、考えたと?」

「……それは、何とも」

 家庭教師は、少し考え込むように視線を落とす。

「ですが。アリアの教育については、至急、見直す必要がありますね」

 その言葉に、ヴァレンティナは小さく笑った。

「話が早くて、助かるわ」

 そう。レベルが近い者同士というのは、言葉が少なくても、通じる。

「結果が、楽しみね」

 ヴァレンティナがそう言うと、

「ええ」  

家庭教師は、静かに頷いた。

「とりあえず、問題を作りますよ」

 その穏やかな声とは裏腹に。

 それは――次から始まるアリアの授業が、決して平和なものではないことを、はっきりと示していた。


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