淑女教育してくれるそうです
ヴァレンティナは、好奇心を宿した瞳で、じっと私を見た。
「あら。まあまあの服装をしているじゃない」
その視線が、頭の先からつま先までをなぞる。 値踏み、というより査定。 ……怖いです。
「僕のセンスだよ。髪も結ってあげたんだ」
父さんが、どこか誇らしげに胸を張る。
「あなたは、本当に無駄に才能を使っているわよね」
ヴァレンティナは、少し冷めた目で弟――父さんを見た。
……あ、やっぱり、そう思うんだ。
父さん、しっぽがあったら、今ごろ床に垂れ下がっていると思います。
「だが、最近は家の仕事も手伝ってくれている」
公爵が、さりげなくフォローに入った。
「頑張っているぞ」
「……それが、いちばん信じられない話よねぇ」
ヴァレンティナは、ため息まじりにそう言いながら、再び私へ視線を向ける。
やめてください。 そんな目で見られると、猫に戻りたくなります。
「どうか、姉さん」
父さんが、一歩前に出た。 その声は、どこか必死だ。
「この子の淑女教師になってほしい。学園に入るまででいいんだ」
「家庭教師は、もういるの?」
ヴァレンティナが、淡々と問いかける。
「息子と一緒に教わっているが。問題か?」
公爵が答えた。
「……まあ、いいわ」
少し考える素振りのあと、ヴァレンティナは肩をすくめた。
「やってあげる。ただし、私は本当に忙しいのよ」
場の空気が、一気に張り詰める。
「この一か月で、完璧に仕上げるわ。そのあとは、月に一回くらいの復習でいいかしら?」
「ありがとう、姉さん!」
父さんの声が、ぱっと明るく弾んだ。
「決まったのなら」
ヴァレンティナは、当然のように続ける。
「今日から、ここで寝泊まりするわ。いいわね?」
「え」
その場にいた全員の声が、見事に重なった。
「ちょっと待ってよ。服とか、連絡とかしないと」
父さんが、慌てた様子で声を上げた。
「長期旅行なんて、よくあることでしょう?」
ヴァレンティナは、あっさりと言い切る。
「トランクは一つにまとめてあるわ。御者に伝えれば、すぐに折り返して持って来るでしょう」
「……旦那の了解が必要だろう」
公爵が、念のためという顔で口を挟む。
「今はちょうど時間が空いているの。気分転換に遊んでおいで、って言われているわ」
何の迷いもない返答だった。
「……すごい。完璧ですね」
思わず、口からこぼれていた。
ヴァレンティナは、そんな私を見下ろすように――けれど、どこか楽しげに見つめる。
「淑女たるもの。いつ、どんな時でも対応できる心構えが必要なのです」
そう言って、余裕のある笑みを浮かべた。
……本当に、すごい人だ。
思わず尊敬の眼差しを向けてしまう。ただし。
公爵と父さんが、揃って青い顔をしているのが、少し気になるけれど。……大丈夫、ですよね?
「これから、よろしくね」
ヴァレンティナは、そう言って、とても美しい微笑みを浮かべた。
その瞬間、隣にいた少年が、言葉を失って固まった。
……うん、うん。 分かるよ。
だって、とても綺麗な人だもの。




