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公爵に捨てられた侍女の子供ですが、猫として生きていきます  作者: りな


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かくれんぼ

「ねぇ……」  

私は、廊下を行き交う使用人たちを眺めながら、少年に小声で言った。

「みんな、とっても忙しそうだけど……どうしたのかな?」

 窓を磨く人。 床を磨く人。 いつもは静かな廊下が、今日は妙に慌ただしい。

「さぁ?」  

少年は、きょとんとした顔で首を傾げた。

 厨房のほうからは、がちゃがちゃと音が響いてくる。 ――嵐、みたい。 何があるんだろう。

「それよりさ」  

少年が、急に顔を輝かせた。

「今日は、かくれんぼしようよ」

 ……え。 今、この状況で?

 私は、ちらりと屋敷の奥を見やる。 ――この屋敷。 無駄に、広い。

 かくれんぼなんてしたら、 本当に見つからなくなる可能性が高い。

 ……まあ。 適当に隠れれば、いいか。

「わかった」  

私は、少し考えてから言った。

「どこまでなら、行っていいの?」

「この屋敷の中なら、どこでもいいよ!」  少年は、満面の笑みで即答した。

 ……範囲、広すぎない?

「じゃあ、僕が鬼ね」  

少年は、壁に向かって目を閉じる。

「三十まで数えるよ!」

「いーち、にー、さん……」

 数え始めた声を背に、 私は、廊下を走り出した。

 ――さて。 どこに、隠れようかな。

 曲がり角をいくつか抜けた、その先で、 ふと、足が止まる。

「……あれ?」

 そこには―― 今まで、気づかなかった。 細くて、奥へと続く階段があった。

 それは、 廊下の奥まった場所に、 ひっそりと、隠れるように存在していた。

 まるで―― 何かを、隠すために そこに作られたかのように。

 少し、ぞくりとする。

 けれど。 その感覚よりも―― 胸の奥で、別のものが勝った。

 ……なに、これ。 気になる。

「……こんなところに、 階段なんて、あったかな?」

 私は、ほんの一瞬だけ迷ってから、 その階段を――駆け上がった。


階段を上りきると、そこには――ひとつの、部屋があった。廊下よりも、少しだけ空気が冷たい。

 私は、息を殺して、そうっと、扉に手をかける。

 ――きい。

 小さな音を立てて、扉が、開いた。

「……」

 言葉が、出なかった。部屋の正面の壁に、大きな一枚の絵が、掛けられていた。

 描かれているのは――夫婦と、三人の子ども。一番上は、穏やかに微笑む、年頃の女の子。その下に、少し年の離れた、小さな男の子が、二人。

 ――五人家族。

 絵の中の人たちは、みんな、とても自然な表情をしていた。無理に作った笑顔ではなく、本当に、そこにいたかのような――そんな、温度のある絵。

 そして。部屋の、ちょうど真ん中には、一台の、古いピアノが置かれていた。

 艶を失った黒い木目。鍵盤には、 長い時間、誰にも触れられていない痕跡がある。

 なのに。

 今にも、

 誰かが腰掛けて、

 音を奏で始めそうな――

 そんな気がしてならなかった。

 ピアノの上には、薄く白い布がかけられていて、その端が、わずかにめくれている。

 

 この部屋は、 使われなくなった場所なのに――忘れられては、いない?

 私は、その場から、一歩も、動けなかった。

 まるで、ここに入った瞬間から、音も、時間も、すべてが、静止してしまったみたいに。

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