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公爵に捨てられた侍女の子供ですが、猫として生きていきます  作者: りな


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男たちの会話

その日は、家庭教師が来る日だった。

 部屋に入ってくるなり、家庭教師は私を一目見て、言った。

「今日のアリアは――人間なんだね」

 ……とても弾んだ声だった。いや、弾みすぎでは?しかも。なぜか、私に向かって、すっと手が伸びてくる。

 ――ちょっと待って。その手は、何ですか。

 私は反射的に、椅子から少しだけ腰を浮かせた。いつでも逃げられるように、体勢を整える。

 ……猫の頃の癖が、抜けていない。

 それに気づいたのだろう。

 家庭教師は、ぴたりと動きを止めた。

 そして――少しだけ、残念そうな顔をして、その手を引っ込めた。

 ……何ですか、その表情。

 今、何を期待していましたか。

 

「そうだよ」  

少年が、何でもないことのように答える。 「朝早くからなんだ」

「それは、だいたい何時頃かな?」  

家庭教師は、さらりと尋ねた。

「まだ、暗い時だって」  

少年が言った。

 ……ちゃんと、 朝の会話を聞いていたんだ。偉いぞ、少年。

 家庭教師は、 今度は探るような視線で、  じっと私を見る。

「……なるほど。どうやら、自分の意思で変わったようですね。ますます、興味深い」

 ――どうして、 見るだけで、そんなことが分かるんですか?

 怖い。 何それ。 ホラーです。 この家庭教師。

「え?」  

少年が、目を瞬かせる。

「本当に、そうなの?」

 ……少年。 私が「人間になりたい」と思った話、 もう記憶の彼方に捨てていませんか?

 私は、少しだけ息を整えて、 答えた。

「……人間になりたい、とは思いました」

 すると、 家庭教師が、静かに頷く。

 ――ほらね? と言いたげな、その視線。

 まるっとお見通しさ、の目で 私を見るの、 やめていただけませんか。

 先生。



その日の夜。

 屋敷の一室で、三人の男が向かい合っていた。

「アリアが、自分で人間になったんだ!」  最初に声を上げたのは、父さんだった。

「すごいよ!本当に!お祝いしなきゃ!兄さん!」

 それを聞いて、ぱちぱちと手を叩いた人物は言った。

「……本当に、素晴らしい」  

――家庭教師が、感慨深そうに頷いた。

「しかも、その成長を間近で見られるは……教育者冥利に尽きますね」

「……待て」  

低く、落ち着いた声が割り込む。 公爵は、眉と眉の間を指でもみ込みながら言った。

「アリアは、平民ではなく、貴族として暮らしたい、と言ったんだぞ。もう少し、深く考えてくれないか」

「大丈夫だよ」  

父さんは即答だった。

「アリアなら。あんなに可愛くて、ちっちゃくて。それでいて、時々、はっとするほどしっかりしてるんだ」

「そうですねえ」  

家庭教師も同意するように頷く。

「猫として生きてきたと聞きましたが。本や文字への興味、集中力については、同年代の子どもより、明らかに高い」

「しかしだな」  

公爵は、簡単には引き下がらない。

「貴族社会だぞ。特に、女性の世界は――男性よりも、ねちっこく、腹黒いと聞く」

 ……。

 三人の間に、微妙な沈黙が落ちた。

 父さんと家庭教師は、同時に思った。

 ――誰だ。

 ――そんな、変な情報を吹き込んだのは。

「それに」  

公爵は、さらに畳みかける。

「貴族なら、学園に入るまでに淑女教育を受ける必要があるだろう。……誰が、教える?」

 その言葉に。はっと、二人は気づいた。

「……あ」

「……確かに」

 男、三人。

 ――誰一人として、 淑女教育ができない。

「途中で猫に戻ったら、どうする」  

公爵が、冷静に追撃する。

 ……それも、ある。

 三人は、顔を見合わせた。

 そして。

「……どうしようか」

「……ですねえ」

「……相談、必要だな」

 その夜。

 三人の男は、真剣に、頭を抱えることになった。

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