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公爵に捨てられた侍女の子供ですが、猫として生きていきます  作者: りな


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今日は絵本無し

屋敷の中に入った、その瞬間だった。

「アリア、いたんだ!」

 弾かれたような声と一緒に、少年が、こちらへ走ってくる。

「もう……。とっても心配したんだから!」

 息を切らしながら、少年は言った。

「屋敷中を、探したんだよ」

 ……ごめんなさい。

 胸が、きゅっと、縮む。

「にぁ……」

 今の私は、それしか、言えなかった。

「きっと、お腹が空いてる」

 父さんは、落ち着いた声でそう言って、

「まずは、食べ物だな」

 私を、そっと、少年へ渡した。

 次の瞬間。

 ぎゅうっ。少年の腕が、強く、私を抱きしめる。

「本当に……。本当に、心配したんだから……」

 震える声。

 ……ごめんなさい。言葉にできない代わりに、私は――

 ぺろり。少年の手を小さく、舐めた。

「……え?」

 少年が、驚いたように、私を見る。

「にぁ」

 短く、鳴く。

 少年の目が、じわっと、潤んだ。

 ……ごめんなさい。……ありがとう。

 私は、もう一度――

 ぺろり。

 今度は、さっきよりも、少しだけ、丁寧に。

 少年は、何も言わずに、

 ただ、私を抱きしめる力を、

 少しだけ、強くした。


「今日は、絵本は無しだ」

 父さんは、そう言って、私の頭を一度だけ撫でた。

「良い子で、寝るんだぞ」

 それだけ言って、部屋を出ていく。

 ……あれ?

 いつもなら、絵本を一冊、読んでくれるのに。

 もしかして――怒ってる?

 胸の奥が、ちくり、とした。

「今日は、僕と一緒に寝るんだよ」

 少年は、そう言って、

 私を抱き上げる。

 ……待って。父さん、行っちゃった。

「にゃあ……、にゃあ……」

 私は、小さく鳴いた。

「おじさんもね」  

少年は、少しだけ困った顔で言う。

「ずっと、探してたんだよ」

 ……そう、だったんだ。

「僕もさ、カーテンの裏とか、台所とか、屋根裏とか、ベッドの下とか……」

 ひとつひとつ、思い出すように数えながら、

「とっても、探したんだから」

 ……うう。

 本当に、ごめんなさい。

 少年の部屋に入って、ベッドにもぐりこむ前に、私は、窓辺へ行った。

 外は、もう夜。

 屋敷の奥――執務室に、明かりが灯っている。

 ……もしかして。昼間、私のことで、仕事ができなかった分を、今、しているのかな。

 小さな光が、夜の中で、静かに、揺れていた。

 その明かりが、じわり、と。

 胸の奥に、染み込んできた。

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