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公爵に捨てられた侍女の子供ですが、猫として生きていきます  作者: りな


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復習をしました

家庭教師は、肩をすくめるようにして言った。

「まあ、一度で成功するとは、思っていませんでした」

 ……え。今、ちょっと、

 ため息、つきましたよね?

 それ。地味に、失礼じゃないですか?

「けれど」

 家庭教師は、すぐに気を取り直したように続ける。

「それを意識して、毎日行うように。訓練です」

 ……まあ。必要なのは、分かります。

 分かりますけど。

「じゃあ、僕は」

 そこで、少年がぱっと顔を輝かせた。

「毎日、それを観察日記につけるね!」

 ……え。

 まだ、やってたんだ。

 とっくに飽きて、自然消滅しているものだと、ばかり思っていたのに。

「ほら、今も持ってるんだ」  

少年はそう言って、足元の鞄から一冊のノートを取り出した。

「ほお」  

家庭教師が、興味深そうに声を上げる。

「いつも持っていれば、忘れる前に書けるでしょ?」  

少年は、当たり前のように言った。

「……賢いですね」  

家庭教師は、しみじみと頷いた。

「それは、大変良いことです。ぜひ、お願いしますよ」

 ……ちょっと。応援しないでください。

 それを記録しても、たぶん、楽しい内容にはなりません。

「ちゃんと、毎日つけてるんだ」  

少年は、胸を張って言った。

「すごいでしょ!」

 ……なんでそんなに、眩しい顔で言うかな?

「素晴らしい!」  

家庭教師は、目を見開いて称賛する。

「最高ですね!」

 ……家庭教師。

 そこに最大級の賛辞を、込めなくていいです。

 ちょっと。おかしいって、思いません?

 私は、家庭教師と少年ががっしりと握手を交わす光景を、ただ呆然と眺めていた。


「今日は、これまで」

 家庭教師のその一言で、ようやく勉強の時間が終わった。

 私が途中で口を挟んだ分も、きちんと帳尻を合わせて進めていたあたり、この家庭教師が本当に優秀なのだと、改めて思う。

 ……でも。

 ああ、疲れた。

 なんだか、どっと疲れた。

 一息ついていると、少年がこちらへやって来た。

 ――目が、きらきらしている。

 ……あ。

 これ、嫌な予感がする。

「ねぇ、復習しようよ」

 ほら、来た。

「……何の?」  

警戒しながら聞くと、

「猫になる方法の」

 ……ですよね。

 やっぱり、来ましたね。正直、気が進まない。

 けれど。そんな、期待に満ちた目で見られてしまったら――

 嫌だ、とは、言えなかった。

 しくしく。

「アリア、イメージだって」

 少年は、真剣な顔で言う。

 ……はいはい。分かってますよ。

 私は観念して、目を閉じた。

 猫。

 猫。

 アメリカンショートヘアの、猫。

 ――すると。

 何か、頭のあたりと頬が、むずむずしてきた。

 ……ん?

「……アリア」

 少年の声。

 私は、目を開けた。

 ……?

 視界の高さは、変わっていない。

 手も、足も、ちゃんと人間のままだ。

 ……失敗?

 そう思った、その瞬間。少年が、私の手を取って、走り出した。

「ちょっ、なに!?」  

声を上げる間もなく、連れて行かれたのは――鏡の前。

 そこに映っていたのは、

 ……え。

 ――耳。

 頭の上に、ぴん、と立った、猫の耳。

 ――ひげ。

 頬から、ちゃんと、生えてる。

 ――鼻。

 ……鼻が。

 猫だとぅ?

 私は、ゆっくりと少年を見た。

 少年は、満足そうに、こくりと頷いた。

 もう一度、鏡を見る。

 ……どうしよう。

 どうしよう、これ。

 足から、力が抜けて、

 私は、その場に、ずるずると座り込んだ。

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