ベッドの下から出ました
「……出ようよ」
私がそう言うと、
「もう少し、ここにいる」
少年は、即答した。
……どうして? まだ、何かあるの?
「……どうして?」
私は、つい聞き返す。
「アリアと、二人だけの秘密だから」
――。
……え。
二人だけの、秘密。しかも、真顔。
……ちょっと待って。 それ、破壊力が高すぎませんか?
顔が、崩れそうになる。 必死に、息を吸って、吐いた。
「……もう少し、だけだよ」
私がそう言うと、少年は、少しだけ満足そうに頷いた。
本当は―― ずっとここにいても、いいんだけど。 ……言えないな。 いたいけど。
「僕は、アリアを守りたい」
……。
心臓が、止まるかと思った。
なに、その台詞。 告白? 告白ですか?
――この子、本当に、五歳?
「……ありがとう。嬉しい」
私は、やっとそれだけを返す。
……お願い。 もう、何も言わないで。
これ以上は、 心臓が、もたない。
そうして―― ベッドの下で過ごす時間は、 ほんの少し、増えた。
私と少年は、ベッドの下から這い出した。 少し埃っぽくなった服を軽く払ってから、私は言う。
「まずはね。変わることを、自分の意思でできるようにならないと」
……教師がいれば、一番いいのだけれど。 この手のことを、きちんと教えられる人は、そう多くない。
「家庭教師に聞いてみようか。色々、調べてるかもしれないし」
少年は頭を払いながら言った、
そういえば、 研究資料だとか、文献とか。何か取り寄せる、と言っていた気がする。
「そうだね」
私は、素直に頷いた。
その日の夕食。 公爵は、食卓で、私と少年をちらりと見た。
少年は、もう青ざめてもいない。 視線も、呼吸も、いつも通りだ。
……ちなみに。 私は、いつだって通常運転です。
「……何か、あったのか?」
公爵は、少年にそう尋ねた。
「何か、て?」
少年は、落ち着いた声で聞き返す。
……おや。 質問に質問で返しましたよ、この子。 聞きました? 今の?
――成長してる。
「……まあ、いい」
公爵は、深追いせずに言った。
「気が晴れたのなら、それでいい」
……ちゃんと、心配していたんですね。 対応は、少し遅かったけれど。
でも。 きっと、この公爵だから。 この人が父だから―― 少年は、こんなふうに、優しく育ったのだろう。
私は、少しだけ、ほのぼのした。
――弟の、やけに険しい視線を、全力で無視しながら。
……お願い。 届いてるから、やめて。 私は、それ、知らない! 知らないからね!




