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公爵に捨てられた侍女の子供ですが、猫として生きていきます  作者: りな


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母さんの夢

私は、さっと毛布を頭まで引き上げた。

「……寝るんですが?」

 そう言ってみたものの。 父さん――いえ、弟……でもなく。 やっぱり父さんは、ちっとも部屋を出ようとしない。

「寂しいだろうからさ」  

当たり前みたいな顔で言う。

「眠るまで、待っていようと思って」

 ……要りません。 むしろ、その存在感が原因で、眠れません。

 睡眠時間は大切です。 成長期なんですよ? 私は。――速やかに、自室へ戻りましょう。  そう言いたかった。 とても、言いたかった。

 でも。

「……おやすみなさい」

 結局、そう言ってしまった。

 ……ああ。 私、ちゃんと「娘」をしている。 今の自分を、全力で褒めてあげたい。

 やがて、意識がゆっくりと沈んでいく。

 夢の中で――  何か、暖かいものを感じた。

 頬に。 やさしく、触れる感触。

 ……?

 その瞬間。 不意に、記憶がよみがえった。

 母さんに、舐められていた記憶。 あの、少しざらりとした温もり。

 私は、その「何か」を、無意識に手に取って、 頬にすり、と寄せた。

 ……母さん。

 きっと、寝る前に母さんの話をしたせいだ。 だから、こんな夢を見たんだ。

 ……母さん。

 私は、ここだよ。

 ちゃんと、生きてるよ。


目を覚ました瞬間――

 視界いっぱいに、顔があった。

 弟……じゃない。

 父さん。

 ――いや、やっぱり弟。

 混乱する私の視線の先で、彼は、ベッドに頭をのせていた。目を、閉じて。椅子を、近づけたらしい。

 ……近い。

 近すぎる。

 ふと、違和感に気づく。 私の頬に――手。

 彼の、手。

 …………。

 ――あああああああ!! もしかして。

 やったの? 私。

 私は、音を立てないよう、そろりそろりとベッドから抜け出そうとした。

「おはよう、アリア」

 にこやかな声が、逃走を許さなかった。

「……オハヨウゴザイマス」

 思わず、片言になる。 ……なんでしょう。  この人、やけに爽やかですね?

「昨夜は……」

 ――やめて。 聞きたくない。 言わないで。

 心の中で全力で祈る。

「アリアが、僕の手を放さなかったんだ」

 ……。

「これは、不可抗力さ」

 ――嘘よ。 絶対、嘘よ。 お願い、誰か嘘だと言って。

「……モウシワケゴザイマセン」

 私は、深く、深く頭を下げた。 もう、心は完全に死んでいる。

「でもね」  

父さんは、悪びれもせず続ける。

「アリアの、可愛い寝顔をずっと見られたんだ。満足さ」

 ……あの。 ちゃんと、寝ましたよね?  冗談ですよね? ずっと起きてたとか、言いませんよね?

 そう思って、ふと彼の顔をよく見る。

 ――目の下。

 しっかり、隈がある。

 ……。

 …………。

 ……寝てないじゃないですか。

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