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公爵に捨てられた侍女の子供ですが、猫として生きていきます  作者: りな


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絵本の感想

……うーん。

 感想が、難しい絵本だなぁ。

 いや、絵本だし、こういうものか。

 顔を上げると、少年が目を耀かせてこちらを見ていた。

「どうだった?」

 ……困った。

 本当に、言葉が見つからない。

「……とっても、読むのが上手だね」

 結局、それしか言えなかった。

 なんてこと。

 でも、少年はぱっと顔を明るくした。

「僕ね、この話が大好きなんだ」

「だって、ひとりぼっちの子は、ひとりじゃなくなるでしょ?」

 ――ああ。

 私が、この屋敷で少年に会ったとき。

 確かに彼は、一人だった。

「月の猫は、きっとアリアだよ」

 少年は、少し照れたように笑う。

「僕には、猫の耳も、しっぽもないけれどさ」

 その目は、少し潤んでいた。

 ……ごめん。気づいてなかった。

「アリアがいたら」

 少年は、ぽつりと言う。

「僕、きっと、ひとりぼっちにならないと思うんだ」

 胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。

 私は、思わず少年に抱きついた。

 ……ごめんなさい。

 自分のことで、いっぱいいっぱいだった。

 公爵夫人がいなくなって、きっと、寂しい気持ちを抱えていたはずなのに。

 それを、少年は誰にも見せていなかった。

「私はね」

 私は、静かに言った。

「月の猫みたいに、歩き続けることはできないよ」

「うん」

「でも、隣にいることはできると思う」

「うん」

「勉強も、頑張る」

「うん」

 少年は、何度も頷いてくれた。

 ――いつか。

 この絵本が、

 ただの思い出話になる日が来たらいい。

 私は、心からそう思った。


夕食の席で、公爵がふと私を見て言った。

「アリアは、字が読めないし、書けないのだな」

「そうです」

 私は、素直に頷いた。

 ……だって、生まれてからずっと猫だったんだもん。読めませんし、書けません。

「学園に入るまでには、必ず覚えるように」  公爵は、淡々と続ける。

「他にも、勉強することは多いからな」

「はい!」  

少年が、ぱっと手を挙げた。

「僕がね、毎日アリアに絵本を読んであげることになったんだ」

 それはもう、嬉しそうに。

「そうか」  

公爵は、少しだけ口元を緩めた。

「欲しい本があったら、遠慮なく言うのだぞ」

 ……この世界、本って安いのかしら。

 いや、そんなわけないですよね。

 さすが公爵家、金銭感覚が別世界。

「それなら」  

今度は――弟、ではなく。父さんが、満面の笑みで言った。

「僕も、毎日絵本を読んであげよう」

 ……え。

 ちょっと待ってください。

 その提案、必要ですか?

「そうだな」  

なぜか公爵まで、うんうんと頷く。

「寝る前に読んであげるのも、いいだろう」

 ……それは!

 公爵が!

 少年に!

 してあげるやつでは!?

 どうして私に流れてくるんですか!

 自分の希望を、さりげなく押し付けないでください!

「よし、今夜からだな」  

父さんは、すっかりやる気に満ちていた。そして、追い打ちのように言う。

「僕はね、この書庫の本、ほとんど全部読んでるんだ」  

胸を張って、誇らしげに。

「きっと、兄さんよりも詳しいよ。期待してて、アリア」

 …………。

 ……期待よりも。

 不安しか、ありません。

 と、ここで。

「僕は絵本係だから」  

少年が、きっぱりと言った。

「おじさんは、それ以外にしてね」

 ……待って。

 それ以外って、何。

 一体、何を読むというの?

「それもそうか」  

父さんは顎に手を当て、少し考え込む。 「……ちょっと難しいが、無いわけではないな」

 ………………。

 ……恐怖しか、ありません。

 なんですか、その少しの間は。

 そんな顔をされたら。

 そんな含みを持たされたら。

 「嫌です」なんて、言えるわけがない。

 どうやら私には――

 残念ながら、良心というものが、ちゃんと残っていたらしい。

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