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公爵に捨てられた侍女の子供ですが、猫として生きていきます  作者: りな


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弟の決意

僕は、少女になったアリアを見た。

 ――やっぱり、彼女の色だ。

 その瞳も、髪も。

 目を大きく見開いて、驚いているその表情さえ、よく似ている。

 ……いい。

 だが、その姿を甥っ子に見せるのは、駄目だな。

 そう判断するのに、迷いはなかった。

 僕は素早く、着ていた上着を脱ぎ、アリアにかける。

 僕の上着に包まれたアリアは、ぶかぶかの服の中で、さらに小さく見えた。

 それが却って、可愛らしさを増している。

 ……反則だろう。

 その後、着替えた薄紫のワンピース姿のアリアは、最高だった。

 娘ながら、センスがいい。

 ……抱っこしたら、怒るかな。

 公爵――兄さんが、親子鑑定を言い出した時は、正直驚いた。

 彼女は、そんな人ではない。

 ずっと、兄さんだけを見ていたのを、僕は知っている。

 それでも。

 ――もしかして。

 胸の奥に生まれた、かすかな不安は、ゆっくりと膨らんでいった。

 僕はそれを振り払うように、親子鑑定に臨んだ。

 アリアは、終始静かだった。

 ……この子は、きっととても賢い。

 無駄なことを言わず、状況を理解している。

 どんな結果であろうと、守るつもりだった。

 彼女の子なら、なおさらだ。

 結果は――僕の子どもだった。

 嬉しくても、人は泣くのだと、初めて知った。

 ……すぐに、隠したけれど。

 兄さんに報告すると、返ってきた言葉は一言。

「そうか」

 この世界は、子どもがとてもできにくい。

 だから、性には比較的自由だ。

 アリアは、奇跡の子だ。

 兄さんだって、きっと相当努力したはずだ。けれど、結果は長男が、一人しか生まれなかった。

 僕は、アリアを抱きしめた。

 小さくて、

 小さくて、

 何よりも大切な存在。

「……父さん……」

 確かに、アリアはそう言った。

 ――ああ。

 彼女の分も、愛してあげよう。

 彼女の分も、幸せにしよう。

 僕は、心の中で、そう誓った。


ーーーーー

夕食の席で、弟――もとい父さんが、改まって口を開いた。

「アリアは、鑑定の結果、僕の娘だと判った。これから、よろしく」

 そう言って、頭を下げる。

「……そうか」

 公爵は、静かに頷いた。

 それ以上、余計なことは言わない。

「じゃあさ」

 少年が、ぱっと顔を輝かせた。

「一緒に勉強して、一緒に学園に行けるね!」

 にっこり笑うその表情に、悪意は一切ない。

 ……うん、分かってる。分かってるんだけど。

「アリアは人間だから」

 公爵が、淡々と言った。

「これからは、別々のベッドで寝るように」

 ――ですよね。

「え……」

 少年が、しゅんと肩を落とす。

「アリア、寂しくて猫になっちゃうかもしれないよ? それでもダメなの?」

 ……その理屈、どこから来た。

「それなら」

 今度は父さんが、ぱっと顔を上げた。

「僕が一緒に寝てあげよう。それなら、アリアも寂しくないし――親子だから、安心だろ?」

 …………。

 ――アウト。

 完全にアウトです。

 すると父さんは、追撃のように言った。

「アリアだって、父さんと寝たいよね」

 爽やかに。

 満面の笑みで。

 ……ちょっと、恐怖です。

 その笑顔。

 私は、少し固まった。

「だったら!」

 少年が勢いよく手を挙げる。

「僕も一緒に寝る! 三人で!」

 ……やめて。

 私は、想像した。

 川の字になって寝る三人。

 左右に挟まれる私。

 ――無理。

 おかしい。

 絶対に、無理。

「そうだな……」

 公爵が、少し考え込む素振りを見せた。

 ――考えなくていいです!

 その選択肢、検討する価値ありません!

「一人で、寝ます」

 私は、きっぱりと言った。

 ……公爵、考える余地はありませんからね。

 ちらりと見ると、父さんと少年が、そろって残念そうな顔をしている。

 ……ちょっと。

 そんな顔しないでください。

 私が、悪者みたいじゃないですか。

 そのとき。

「アリア、一緒に勉強しようね」

 気を取り直した少年が、にこにこと言った。

 …………。

 ……勉強、するのですか?

 私、猫なんですけど。

 本当に?

 猫なのに、学園に行けと?

 本気?

 胸の奥に、じわりと不安が広がった。

 ――どうやら私、

 思っていた以上に、とんでもない人生を歩き始めているらしい。

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