目が覚めたら、猫でした
夕食は、とても美味しかった。
ふわふわの白いパン。
柔らかく煮込まれた肉。
名前の分からない野菜まで、全部。
猫の頃は、残り物ばかりだった。
だから、温かい食事を前にすると、胸の奥がじんとする。
食後、公爵が静かに言った。
「アリア。今日、昼間に寝ていた部屋を、今夜から使うといい」
……あの部屋を?
私が?
思わず顔を上げると、公爵は小さく頷いた。
少年は、少し驚いたような顔をしている。
……部屋が、ある。
自分の、部屋。
それは、あまりにも贅沢な響きだった。
「……わかりました」
そう答えるのが、精一杯だった。
夜。
私は、ひとりでベッドに潜り込んだ。
慣れない匂い。
新しい布の感触。
目を閉じても、すぐには眠れなかった。
昼間に寝てしまったせいもある。
それでも、いつの間にか意識は遠のいて――
夢を見た。
猫だった頃の夢。
私と、兄弟たちと、母さん。
寄り添って、丸くなって眠る、当たり前だった日々。
けれど――
気づけば、みんないなくなっていた。
「……いかないで」
私は走った。
何もない世界を、ただ、必死に。
その時。
ふわり、と。
何かが、私を撫でた気がした。
……?
もう一度、そっと。
……???
でも、不思議と気持ちいい。
私は、そこでくるりと丸くなった。
瞼が、重くなる。
静かで、温かい闇の中へ――
私は、そのまま沈んでいった。
――目を開けると。
目の前に、少年の顔があった。
「……おはよ――」
そう言おうとして、
「にゃあ」
声が、違った。
……猫になってる。
一気に目が覚めて、私はベッドから飛び出した。
着地した床の横、
ベッドの下に――私の服が落ちている。
……やったよ。
ちょっと。
どうしよう。
焦っても、喉から出るのは、
「……にゃうん」
だけだった。
「……猫ちゃん……?」
寝ぼけた声が、聞こえた。
私は、はっとして振り向く。
ベッドの上で、少年が半分だけ目を開けていた。
……起きた。
私は、慌てて床に落ちていた自分の服を咥え、逃げようとした。
――が。
扉が、開かない。
……詰んだ。
背後で、布が擦れる音。
少年が、起き上がる。
「……おはよう、アリア」
完全に、目が覚めている声だった。
次の瞬間、私はひょいと抱き上げられた。
「猫に、いつなったの?」
……知らない。
こっちが知りたい。
やめて。
背中を撫でないで。
……気持ちいい。
今、反省してるのよ。
本当に。
私は抵抗のつもりで、猫足で少年をぺしぺし叩いた。
「いたい、いたい」
そう言いながらも、少年は楽しそうだ。
「アリアは、可愛いよね」
……猫が可愛いのは当然よ。
特に子猫なんだから。
アメリカンショートヘアだよ?
私。
人間だったら、今ごろ自分で頬ずりしてるわ!
少年は、私の肉球をぷにぷにして、にんまり笑った。
……やめて。
本当に、やめて。
そして、そのまま――
「父さんに、見せてこよう」
そう言って、少年は私を抱えたまま、部屋を出た。




