少年と遊んで
「しりとり、って知ってる?」
私がそう聞くと、少年はきょとんとして首を傾げた。
「しりとり?」
「うん。言葉の一番最後の音を、次の人が繋げていく遊びなの」 私は、指で地面に文字を書く真似をしながら説明する。 「最後に『ん』がついたら、負けだよ」
「ふーん……?」
まだ半信半疑の顔だ。
「例えばね――
おふろ、ロバ、バケツ、つみき、キノコ、コイン、って繋げていくの」
「……コイン?」
「そう。だから、コインって言った人が負け」
「わかった!」
少年は、ぱっと表情を明るくした。
それから私たちは、屋敷の庭の木陰で、 地面に寝転がるようにして、しりとりを始めた。
言葉が途切れるたびに、少し考えて。 思いついたら、嬉しそうに声を上げて。
何回、続けただろう。
……たぶん、私は疲れていたんだと思う。 いっぱい泣いて、 いっぱい考えて、 安心してしまったから。
気づいた時には、私は眠っていた。
少年は、 言葉を失くしたまま眠ってしまった私を、 目を細めて、そっと見つめていた。
……そのことを、 私は、まったく知らなかった。
いつの間にか、公爵が迎えに来ていたらしい。眠っていた私を、そのまま抱き上げて運んでくれたのだと、後で少年がこっそり教えてくれた。
目を覚ますと、知らない部屋だった。
知らないベッド。
知らない匂い。
……誰も、いない。
「……ここ、どこだろう」
私は、そっとベッドを抜け出した。
窓の外は、夕焼け色に染まっている。
その瞬間――
くう、と情けない音が鳴った。
「……お腹、空いたな」
考えるより先に、体が動いていた。
その時、扉の向こうから控えめな音がする。
「――アリア、起きた?」
少年の声。
扉が、そっと開いて、少年が顔を覗かせた。
……よかった。
公爵の家だ。
安心して、私はぱっと笑った。
「起きたよ!」
そう言って、私は駆け寄った。
少年は、なぜか途中で動きを止めた。
顔が、夕焼けみたいに赤い。
……夕日が当たってるのかな?
私は、特に気にしなかった。
「あのね、お腹空いたの。ご飯、あるかな?」
猫の頃みたいに、自然に距離を詰めて、すり寄るように。
「……あ、あるよ」
少年は、少しだけぎこちなく答えた。
でも私は、その違和感に気づかなかった。
頭の中は、もう夕飯のことでいっぱいだった。




