私はアリアという名前になりました
「アリアだね! よろしく!」
少年は、太陽みたいな笑顔で、にかっと笑った。
……アリア、かあ。
胸の奥が、少しだけ、くすぐったい。 まだ、自分の名前じゃないみたいで、変な感じだ。
「さて、寝る場所も考えないとな」
公爵が、腕を組んで言う。
「一緒に寝たら駄目なの?」
少年が、首を傾げた。
「猫ちゃん――じゃなくて、アリアは一緒に寝ると、すっごく温かくて、ほわってなるんだよ」
……五歳なら、まあ大丈夫、なのかな。
でも、この世界の教育方針、全然わからない。 私は、少し遠い目になりながら、そのやり取りを聞いていた。
「……そうか。少し考える。後でな」
公爵はそう言って、話を切り上げる。
……あ、逃げたな。
「しかし……どんな時に、猫の姿になるのでしょうね」
家庭教師が、私を観察するような視線で言った。
「……私が、知りたいです」
思わず、ぽつりと本音が漏れる。
だって、猫は裸でも恥ずかしくないけれど―― 猫から突然、人間になったら、大問題だ。
服とか! 心の準備とか! 色々ある!
「誰か、教えてくれる人を探すのが良さそうですね」
家庭教師の言葉に、公爵は静かに頷いた。
その時――
弟が、ずっと私を見ていたことに、 私は、まだ気づいていなかった。
弟は、何かを考えているような顔をしていたが、やがて短く言った。
「帰るよ」
そう言って、踵を返す――その直前。
ふいに、弟は私の前に戻ってきた。
そして、何のためらいもなく、 私の髪を一房、指で掬い取る。
「やっぱり……彼女の面影がある」
静かな声だった。
……ギャー。 近い。近い近い近い。
私は、心の中で全力で絶叫していた。
距離が。 距離が完全におかしい。
固まる私をよそに、弟はそれだけ言うと、今度こそ本当に去っていった。
……よかった。 本当に、何も起こらなかった。
胸の奥で、そっと息を吐く。
「では、これからの教育について話し合いますので」
家庭教師が、公爵に向かって言う。
「君たちは、庭で遊んでおいで」
そうして、少年と私は、半ば追い出されるように庭へ出た。
……これは、間違いなく寝る場所の相談だ。 私は、なぜか確信した。
「今日の勉強は、お休みだよ」
そう告げられた少年は、 小さく、ぎゅっと拳を握った。
……ガッツポーズ。 世界が違っても、そこは共通なんだ。
「ねえ、何して遊ぶ?」
少年は、きらきらした目で私を見上げる。
……五歳の遊びって、何だろう。
ままごと? ボール遊び? それとも、砂場……?
私は、思わず遠い目になった。




