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公爵に捨てられた侍女の子供ですが、猫として生きていきます  作者: りな


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私が知ったこと

公爵夫人は、震える声で言った。

「……私を、愛していなかったの?」

弟は、表情を変えずに答えた。

「君が、『愛してるって言って』と、ねだったからだ」

公爵夫人の目が、大きく見開かれる。

「じゃあ……手紙は?

あなた、いつも手紙をくれたじゃない」

「君が最初に言ったんだ。

十日ごとに手紙が欲しいって。

必ず、愛の言葉を入れて、と」

淡々とした声だった。

公爵夫人は、唇を噛みしめてから、叫ぶように言った。

「……私を、抱き締めてくれたじゃない!」

「それも、君が『抱き締めて』と言ったからだ」

弟は一拍置いて、続ける。

「僕は、彼女が……あの侍女が、いつか屋敷に戻るかもしれない。その情報が欲しかっただけだ」

「……嘘よ」

公爵夫人は、首を振った。

「そんなの、嘘」

弟は、静かに彼女を見据えた。

「君は、いつも自分が一番じゃないと気が済まない。頭痛だって、兄の気を引くためだと……僕は知っている」

「私は、公爵夫人よ!」

公爵夫人は、叫ぶ。

「いつだって、誰かに誉められて、愛されて、甘やかされて――それの、何が悪いのよ!」

張り詰めていた空気を、別の声が割った。

「……子供がいるんだ」

家庭教師が、苦々しい表情で口を挟む。

「これ以上は、やめてくれないか」

部屋に、重い沈黙が落ちた。


「……あなたが、母を殺したんだ」

気づけば、私はそう口にしていた。

喉が焼けるように痛くて、声は震えていたけれど、それでも止められなかった。

「……返して」

涙が、次々と零れる。

拭うこともせず、私は公爵夫人を睨みつけた。

「返してよ……!」

「私は、悪くないわ」

公爵夫人は、吐き捨てるように言った。

「違う……!」

胸が詰まって、言葉が途中で途切れる。

「あなたが……あなたが……」

その先を言わせなかったのは、公爵だった。

「――出ていけ」

低く、冷え切った声。

「しばらく、別邸で過ごしなさい」

公爵夫人は、何か言い返そうとしたが、最後には唇を歪めただけだった。

公爵は、使用人たちに命じる。

「連れて行け」

公爵夫人の姿が部屋から消えると、重い沈黙が落ちた。

誰も、すぐには口を開かなかった。

「……このロケットは」

静かに声を発したのは、家庭教師だった。

「おそらく、彼女の服から落ちたのでしょうね」

その視線が、私の手元に向けられる。

私は、そのとき初めて気づいた。

――自分が、ロケットを強く握りしめていたことに。

公爵が、私の前に立つ。

「妻が、取り返しのつかないことをした」

短く、重い言葉。

「……済まない」

そして、公爵は続けた。

「君の望みは、何だ?」

私は、濡れたままの瞳で、公爵を見上げた。

喉が震えて、息が詰まる。

――何も、言えなかった。

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