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公爵に捨てられた侍女の子供ですが、猫として生きていきます  作者: りな


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少年は秘密を持った

少年は、ロケットをすぐには戻さなかった。

じっと見つめ、何度か指でなぞり、それから静かに蓋を閉じる。

そして私を抱いたまま、部屋の奥へ向かった。

小さな机。

引き出しのひとつを開け、布に包んでロケットをしまう。

「……内緒だからな」

誰に言うでもなく、そう呟いてから、引き出しを閉めた。

その日の夕食後、少年は意を決したように席を立った。

「お父様」

公爵は書類から顔を上げる。

「猫を、飼いたいです」

食卓が一瞬、静まり返った。

「庭で拾いました。すごく痩せていて……このままだと、死んじゃいそうで」

公爵は私を一瞥し、すぐに視線を逸らした。

「世話は?」

「……します。全部、自分で」

少しの沈黙の後、公爵は淡々と言った。

「なら許可する。ただし、他人に任せるな」

それだけだった。

少年は小さく息を吸い、深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

公爵夫人は、この席にはいなかった。

「今日も、頭痛がするのか?」公爵は使用人に聞いた。

「はい。お食事は調子が良くなったら召し上がるそうです」

「そうか」

業務連絡のような、会話だった。



こうして私は、この家で“飼われる猫”になった。

私は人々の会話から気づいた。ここは、公爵家だということを。


与えられたのは、少年の部屋の隅。

粗末だが清潔な寝床と、小さな器。

少年は毎日、食事を運び、水を替え、私の体を拭いた。

その手つきは、不器用で、でも優しかった。


公爵はほとんど屋敷にいなかった。

「領地が、広すぎる。とてもじゃないが周りきれない」

おそらく、人に仕事を任せられないのだろう。

公爵夫人は別棟に籠もり、誰かから届く手紙に目を輝かせていた。

屋敷は広いのに、少年の周りだけが、ひどく静かだった。

夜、私は少年の膝の上で丸くなる。

「……なあ」

少年は、誰にも聞かれない声で言う。

「ここ、静かすぎるよな」

私は答えられない。

ただ、喉を鳴らした。

孤独な少年と、孤独な猫。

そんな日常が、静かに始まった。

――だが、この屋敷には

秘密をしまう引き出しが、一つ増えていた。


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