公爵夫人の逢瀬
公爵夫人の行動は、速かった。
男の子は呼び出され、自分の部屋で彼女と向き合わされていた。
机の上には、問題のロケットが置かれている。
「――何故、これを持っているのですか?」
冷たく、感情のない声だった。
男の子は、ぎゅっと唇を噛みしめてから、小さく答えた。
「……拾ったんだ」
「どこで?」
間髪入れずに、問いが飛ぶ。
「庭、で……」
男の子は、思わず私の方を見た。
その視線を、公爵夫人は見逃さなかった。
ゆっくりと視線が動き、私と彼女の目が合う。
「――この猫が、持ってきたとでも言うの?」
低く、冷たい声。
男の子の身体が、びくりと震えた。
「まあ、いいわ」
公爵夫人は、苛立ちを隠そうともせずに言った。
「本人に聞けば、わかることでしょう」
その言葉に、男の子は一歩踏み出した。
「……それは、返して」
勇気を振り絞った声だった。
「あなたの物では、ないのでしょう?」
公爵夫人は、淡々と返す。
「でも……いつか、取りに来るかもしれないから」
男の子の身体は、細かく震えていた。
それでも、視線を逸らさなかった。
一瞬の沈黙。
「……そう」
公爵夫人はそう言うと、ロケットを机の上に置いた。
硬い音が、部屋に響く。
それ以上、何も言わず、彼女は踵を返した。
扉が閉まる音だけが、あとに残った。
公爵夫人は、すぐに手紙を書いた。
至急、会いたい。
どうしても。
宛先は、いつも手紙を寄越してくる人物だった。
返事を握りしめ、公爵夫人は屋敷を抜け出した。
向かう先は、いつもの場所。
秘密の恋人たちが使う、知る人ぞ知る建物だ。
そこには、すでに男がいた。
「――あの子が、あなたの写真の入ったロケットを持っていたわ」
公爵夫人は、男の胸元を掴む勢いで詰め寄る。
「これと、まったく同じ物よ。どういうことなの?」
男は一瞬、言葉に詰まったように見えた。
「昔、誰かにあげたのかな……?」
曖昧な答えだった。
「私だけを愛しているって、言ったでしょう?」
公爵夫人の声が、わずかに震える。
「それは、嘘だったの?」
男は、苦笑するように肩をすくめた。
「冗談だよ。今は、君だけさ」
そう言って、続ける。
「それは、とても昔に失くしたロケットだ。誰かが拾ったのだろう」
「……本当に?」
疑うように、公爵夫人は見つめる。
「本当さ」
男はそう言って、公爵夫人を抱き寄せた。
公爵夫人は、その胸に身を預けた。
けれど――
男の視線は、彼女の背後を見ていた。
(誰が、あのロケットを持っている……?)
男は、考えていた。
本当は、
誰が、あのロケットを持っていたのかを。




