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第二話 if story

「後ろ向いたら駄目だからね、絶対。」


登下校中も、お風呂でも、


一人でいるときは絶対に後ろを振り返ってはいけないという掟がある。


「なんでダメなの?」


幼かった僕は聞いた。


「死んでしまうからよ。」


そういった母の眼には艶がなく


ただ一点を見つめる人形のようだった。


「お父さんみたいには、ならないでね。」



そんな僕も大学生になって夜中に


歩き回ることが増えた。


何時もの帰り道なはずなのに、


何時もとは違う。


電灯もついているはずなのに光が届かない。


綺麗な満月を見上げる。


月明りさえも届かない。


「おかしい。」


ザッ……ザッ……


後ろで何かが足音を立てている。


自分と同じ速度で、まるで影のように追ってくる。


人じゃない何かなことはすぐに分かった。


『絶対に振り返ってはいけない。』


その瞬間母の言葉を思い出した。


振り返ってしまった父の遺体は


人間の形をとどめていなかったそうだ。


「振り返ったら死ぬ………振り返ったら………」


走ってみる。


しかし、足音は僕の真横を


走っているかのようについてくる。


息遣いさえも聞こえそうなほどに。


 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……


振り返ってはいけない。


わかってる。


ずっと教えられてきたことだ。


でも、気配はすぐ背後にある。


近い。近い。近い。


怖い。


 ──息がかかる。


「どうして振り返らないの?」


僕の声じゃない。


「見てよ見てよ見てよ見てよ!!!」


ダメだ振り返ったら、ここで振り返ったら死ぬ。


「なんで、君は、僕に見てほしいの?」


恐る恐る聞いてみる。


人間じゃない何かは答える。


「誰も、見てくれなかったから。」


「なんで?」


「人じゃないっていうから。」


「どうして人じゃないの?」


怖い。でも、子供みたいな返答をする、


奴はまるで、


小さな男の子のようだった。


「僕の顔がみんなとは違うんだって。


だから、僕は君の顔が欲しいの。」


男の子はそう答える。


「君の顔は、僕の顔に似てるの?」


「うん。だから、、」


「それはダメ。」


「なんで?」


今にも泣きだしそうな声だった。


「僕の顔は僕の顔。君の顔は、君の顔だよ。」


「僕は人間じゃ、、」


「人間だったんでしょ。」


ぴちゃん、と水滴の垂れる音が


後ろから聞こえる。


「うん。」


もう君はきっとこの世にいてはならない存在だ。


でも来世では、人として生まれ変われたらいいのに、


さっきまで殺されかけていたとは思えない。


けれど、僕も泣きそうになった。


「人に生まれ変わるんでしょ?」


僕は聞いてみる。


「うん。」


「成仏しないとできないよ。」


「わかった。ごめんなさい。殺そうとして。」


悲しそうな声で言う。


「いいよ、代わりに、振り返ってもいい?」


「うん。殺さない。」


バッと勢いよく振り返る。


男の子は僕と同じだった。


皮膚はめくれ、


目と鼻はない。


口だけが横に引き裂かれている。


そんな彼を


僕はぎゅっと抱きしめる。


「来世は人間に生まれ変わって、僕のもとにくるんだよ。」


涙を流す彼は、


綺麗な満月へ、


光となって消えていった。


後ろを振り返ってはいけない if story

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