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第一話


「後ろ向いたら駄目だからね、絶対。」


登下校中も、お風呂でも、


一人でいるときは絶対に後ろを振り返ってはいけないという掟がある。


「なんでダメなの?」


幼かった僕は聞いた。


「死んでしまうからよ。」


そういった母の眼には艶がなく


ただ一点を見つめる人形のようだった。



そんな僕も大学生になって夜中に


歩き回ることが増えた。


何時もの帰り道なはずなのに、


何時もとは違う。


電灯もついているはずなのに光が届かない。


綺麗な満月を見上げる。


月明りさえも届かない。


「おかしい。」


ザッ……ザッ……


後ろで何かが足音を立てている。


自分と同じ速度で、まるで影のように追ってくる。


人じゃない何かなことはすぐに分かった。


『絶対に振り返ってはいけない。』


その瞬間母の言葉を思い出した。


「振り返ったら死ぬ………振り返ったら………」


走る。ここがどこかはわからない。


しかし、足音は僕の真横を


走っているかのようについてくる。


息遣いさえも聞こえそうなほどに。


 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……


振り返ってはいけない。


わかってる。


ずっと教えられてきたことだ。


でも、気配はすぐ背後にある。


近い。近い。近い。


 ──息がかかる。


「どうして振り返らないの?」


僕の声じゃない。


「見てよ見てよ見てよ見てよ」


「見ろ。僕を見ろ。さっきからこんなに近くにいるのに。」


ダメだ振り返ったら、ここで振り返ったら死ぬ。


「ねぇ見てよ。」


首が引っ張られる。


冷たい。


生きている人間の体温じゃない。


振り返るな、振り返るな、振り返るな、、


ダメだ、絶対にッ………!


──バキッ


首が痛い。


無理矢理後ろを向かされた。


そこにいたのは、


顔のない”僕”だった。


目がくりぬかれ、


鼻はない。


はがれた皮膚がぐにゃりと広がっているだけだった。


でも”そいつ”は僕を見て、


口が裂けたように笑った。


「やっと見てくれた。」


”こいつ”から逃げないと殺される。


逃げないと………!


そう思った瞬間”奴”が僕の顔に手を伸ばした。


──ベリッ、グシャッ、グヂャッ


熱いものが皮膚を覆う。


痛みが遅れてやってくる。


叫びたいのに声が出なかった。


「これで振り返らずに済むよ。」


”奴”は僕の顔を自分の顔に張り付けて


ゆっくりと言った。


目がない、口がない、鼻がない。


意識が朦朧とするような感覚。


僕はもうない目を閉じた。



3月9日午前3時、○○市▲▲町の□□川付近の遊歩道で、


通行人から、『人が倒れているように見える、血がそこら中に


広がっていて、近づけない。』と110番通報がありました。


警察が現場に向かったところ、現場には、


肉片や皮膚が散乱していたようで、


司法解剖の結果、被害者の男性のものであることが


わかったということでした。


遺体は他殺とみられ、


警察は殺人、及び死体遺棄事件として


捜査を進めるとともに、


遺体の身元の特定を急いでいます。

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