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-evening rain-  作者: 輝戸
ステージ1
7/15

6話 threatening


『んで、拒絶されたと。なーにやってんだお前ら。おい瑛人、お前次攻撃当たったら死ぬじゃん!』

『まぁまぁどうせ時間かかるって思ってたしいいじゃん。つーか回復忘れた、南雲回復くれ回復』

「なんで高難易度やってんのに回復持ってきてねぇんだやる気ねぇのかお前!」


 ボイスチャットで瑛人と南雲と戯れながらゲームに興じる。飯も食い、皿も洗い、風呂にも入り、ここからは自由なゲームの時間なのだ! 宿題なんてゴミ箱に捨てちゃうもんね!


『つーか暁姉妹手強そうだなぁ、頑張れ〜。おいバカ夕陽! 突っ込むな! 死ぬ!』

『後輩達に聞いたけど話できただけ奇跡でしょ、どうやら取り付く島もないらしいし。下がれバカ夕陽! 死ぬって!』

「なんで南雲は他人事なんだよ! つーかバカバカうるさい! こういうのはなぁ強行突破じゃい!」


 その直後……被弾、そしてクエスト失敗の文字。

 うるさくなることを見越してヘッドフォンを外すと、外しているのにやかましい男二人がギャイギャイと騒いでいた。

 ひとしきり罵詈雑言を言った2人は満足したのかゲームを一時中断して件の暁姉妹の話に本格的に話題をシフトさせた。


『んで、どーすんのこの後』

「いや、俺実行部隊だし〜? 後は瑛人とか静音とかの外面いい組に任せる」

『丸投げかよ! どうしろってんだ!』

「いやまぁそこはちょちょいのちょいで何とかしてくれや。南雲、お前明日放課後暇? 遊び行かね?」

『なんで俺に全部押付けて遊ぶモードなんだよ!』

『お前伊勢は?』

「明日は夢芽と遊ぶんだと、というわけで暇なんだよ」

『明日か〜、明日なぁ〜』


 珍しく渋っている南雲、いつもは誘ったら直ぐに来るし誘わなくてもなんか居るのに珍しいこともあるものだ。


『今日チラッと言ったろ? 逢坂が隣町の奴らにボコボコにされてんだけど、ぼちぼち御礼参りするかねって事で明日辺りから俺しばらく忙しい』

「世紀末かよ世界観、このご時世に」


 どんな世界観で生きているのか、今どき不良の喧嘩漫画も数が減ってきてるというのに。

 だが困ったな……瑛人はもちろん部活だろうし、クラスメイトとも普通に話すし仲はいいが別に遊びに行く程でもない。

 あれ? もしかして俺って友達あんまり居ない? やべぇ、雨乃のこと言えない。

 俺が一人で自らを省みているとヘッドフォンから一言瑛人が余計なことを口走る。

 

『お前コレと同類扱いなの恥じた方がいいよ夕陽』

「お前明日登校したら覚えとけマジで」


 数少ない友達が明日また一人減ることが確定した瞬間だった。


 ・・・


「夕陽いい? 外で食べてもいいけどお肉ばっかり食べたらダメだよ、後変なこともしたらダメ、寄り道してもいいけど日付変わる前に帰ってくること」

「うるせぇな、親かよ」


 放課後、夢芽と遊びに行く雨乃がまるで子供に言い聞かせるように注意事項を口にする。いつもの事と言えばいつものことだが夢芽に言われた弟扱いというのがこの場合適切そうで少しだけ悲しくなった。


「月夜先輩の所に昨日の報告して、その後で適当になんか買って家で食うよ」

「分かった、あんまり遅くならないようにするから私も」

「帰る時連絡くれ、もし遅くなるんだったら迎え行くから」

「……私の事何歳だと思ってる?」

「その言葉そっくりそのまま返してやるよ」


 雨乃をシッシッと追いやって俺も通学カバンを持って教室を後にした、気は進まないがタダでコーヒーのんで月夜先輩と駄べって帰ることになりそうだ。

 化学部に辿り着き、いつものようにノック無しで入室するといつものように月夜先輩がパソコンをカタカタと弄っていた。


「やぁ放課後に来るのは珍しいね、なにかあったかい?」

「雨乃が遊びに行くから暇なんすよ。瑛人部活だし、南雲は世紀末だし、昨日暁姉妹と色々あったんで報告がてら暇つぶしに来た次第」

「……何やらかしたの」

「やらかし度で言えば月夜先輩と変わんねぇよ! 俺に口を割らせたければコーヒーを持ってくるのだ、ついでにお茶菓子もあれば嬉しいです!」


 月夜先輩はため息混じりにコーヒーを淹れている、ハンドドリップだ。職員室でもインスタントコーヒーかコーヒーメーカーだというのに学生の身分で個室を牛耳り挙句の果てにハンドドリップまで持ち込むとは大した度胸である。お茶菓子のクッキーも高そうなやつだし、絶対茜さんが持ち込んだなこれ。

 お高いクッキーに舌鼓を打ちつつ、珍しくブラックのコーヒーを飲んで事の次第と顛末を月夜先輩に話すと困ったように頬をかいていた。


「症状持ちはその発症理由から基本的にはそうなるんだろうね……茜が特殊なだけで」

「ありゃ人外だから、人間カウントしたらダメだろ」


 だってデメリット打ち消してるもん、肉体強度で。

 なんだそれ、狡い! 流石ゴリラ、まじゴリラ!


「ハッ! 殺気!」


 背筋を舐められるような不快感を味わって椅子から飛び退いた。恐る恐る窓の向こうを見ると中庭を挟んだ向こう側の生徒会室で茜さんがコチラを見ていた。

 流石に聞こえては無いと思うが茜さんなので聞こえてる可能性もある。多分だけど次会ったら殺される。


「今、茜に夕陽君がゴリラ扱いしたって送ったからね」

「ちょいちょい先輩、やっていいことと悪いことがあるでしょ? 俺死んじゃうよ?」

「夕陽君の確定した死亡については一旦置いといて」

「どこに置いたの今? 墓場か? それとも火葬場か?」


 火葬……できたらいいな、骨も残らない気がしてる。


「暁姉妹の暴走は目に余るね、症状の事が公になるのは僕としても避けたい」

「ま、そりゃ共通認識でしょ」


 症状が公になればそれに伴うリスクも当然湧いてでる、面倒事に巻き込まれるのは絶対に避けたい。


「だが暁姉妹は症状を能力だと考えて無闇矢鱈に奮っている、色々調べたけれど不登校になった三人」


 月夜先輩がため息混じりに呟いた。


「何でも、自分が死ぬところを見せられたらしいよ」

「……随分とまぁおっかねぇ症状だな」

「ここから考えられる暁姉妹の症状として、幻覚や幻聴の類いかもしれないね」

「幻聴や幻覚ね」


 月夜先輩はホワイトボードに人型を二人程書いてそれぞれに幻聴・幻覚と割り振った。


「あくまで推測だけれど、映像や音声を出力できる症状ならば辻褄は合う。事実、実際に音も聞こえていたと言っていたし」

「またすっげぇ症状だね、便利ー」


 なんで俺のはこんな使えない症状なのだろうか? 俺以外今のところ皆そこそこ使える症状なのに。


「二人が常に一緒なのも、二人揃って真価を発揮できると考えるのが自然だしね。ま、純粋に仲良しだって線もあるけど」

「どっちもじゃね?」

「まぁでも、この症状ならば能力だと言い張るのにも頷けるかなデメリットにもよるだろうけど」

「それってさ、幻覚と幻聴は対象選んで一人にしか掛けれないの? それとも周囲の人間みんな?」

「まだそこまでは不明だね」


 当人達に聞くしかないが、あの様子では素直に口を割るとも思えない。だがまぁ直接的に危険のない症状だと分かっただけ収穫はあると考えるべきだ。

 その時、乱暴に化学部の部室の扉が空いて困った様子の茜さんが入ってきた。


「二人とも、困ったことになった」


 茜さんは椅子に腰をかけながらホワイトボードを指さす。


「暁姉妹のクラスで問題発生だ」

「問題? 茜、何が起こったんだい?」

「私も教師陣から聞いた話だから正確なのかは分からないが、教室が爆発したらしい……凄い音を立てて」

「爆発!?」

「だが教室には何も被害は無い、倒れた生徒も何人かいるらしいが、凡そ爆発の被害と呼べるものは何処にも異常はないんだよ」


 おいおい、待てよソレって。


「……困ったね夕陽君。彼女達の症状はさっき君の言った後者に当たるらしい」

「暁姉妹、やりたい放題やってんなぁ。俺と雨乃が昨日突っついたせいか?」

「どうだろうね、多感な時期だし症状持ちは基本的に精神性が安定していないことが多いから衝動的にやったとしても不思議じゃない。それで茜、彼女たちのクラスはなんて?」

「教師陣はとりあえず集団幻覚で片付けるつもりらしい、大事にする気もない。教室にも人体にも何の被害も出ていないからな、犯人探しも出来ない」


 のんびりやろうと思っていたがコレは早急に手を打たねば事態はどんどん悪くなっていく可能性の方が大きい。


「こりゃ月夜先輩、多少無理やりにでも話するしかないんじゃねーの?」

「だね、とりあえず明日の昼また部室に集まってくれ」


 不穏ながらこれ以上ここで出来ることは今日はない、この日はこれでお開きになった。

 茜さんがゴリラのことを思い出す前に俺は逃げるようにして部室を後にして早々に学校から離れた。


 そして現在行くあてもなくプラプラと学校の近くにあるショッピングモールを彷徨いている、ここで適当に夕食を済ませて本かゲームでも買って帰る腹積もりだ。

 併設されたフードコート内のハンバーガー屋で適当なセットを頼み、学生で溢れかえる中で席を探して彷徨いていると見覚えのあるピンク髪が二つ。

 うーん、ここで出くわすとは……だが既にフードコート内の座席は空きがあまりなく、俺は勝手に二人と相席することにした。


「ぎゃあ! なんなんですか! 」

「びっくりした! あれ、紅星先輩!?」


 どかっと腰を下ろすと二人してナイスな反応、俺の行動お見通しな雨乃さんではあまり味わえない新鮮なリアクションである。


「夕陽でいいよ、席空いてねぇから一緒に食っていい?」

「いいですけど……」


 昨日の今日なので敵対心はまだ残っているが、相手のペースを崩すことに定評のある俺なので、そんなもん知らんと適当に片手をぷらぷらさせながらハンバーガーに齧り付いて言葉を吐いた。

 

「あー、別に部室に来いとか言わねぇから、飯食ってお喋りして仲良くなろうや、友達少ねぇんだよ俺」

「適当だなこの人」


 夏華は割とドン引きしたように呟いていたが、冬華の方は楽しげに笑っていた。


「あれ、てかユウ先輩一人なんですか?」


 ユウ先輩って俺の事かしら? 後輩の距離の詰め方に少しだけドギマギしていると夏華はキョロキョロと辺りを見回しながら不思議そうに呟いていた、雨乃が居ないか探しているのだろう。


「1人だよ、雨乃さん友達と遊んでるから家にご飯なくてココ来たんだ」

「やっぱり同棲してるってマジなんですか?」


 やたら食い付きのいい冬華、だがまぁ相手にされないよりはマシである。


「同棲じゃねーよ、一緒には住んでるけど。アレだ、色々事情があって居候してんの」

「その歳で色々あって同級生の家に居候って何したんですか」

「何にもしてねーよ!」

「アレですか、やっぱ夕陽先輩って噂通り暴れまくって勘当されたんですか? ご実家から」

「ちげーよ! 家族仲はいいよ! つーかマジで俺の噂って何が出回ってんの? 詳しく聞かせてそこんとこ」


 すっかり警戒心は解けたのか二人してキャッキャッと俺と雨乃のことについて深堀しようとしてくる、というか雨乃と俺が一緒に住んでるのも一年生知ってるんだ、早くないですかね?


「つーかお前らアレだろ、さっき小耳に挟んだけど教室で爆発騒ぎ起きたんだろ? 大丈夫だった?」


 雑談を繰り広げながら楽しくご飯も食べ終わったので、俺は喉を湿して軽いジャブを打った。


「……夕陽先輩分かってて聞いてますよね?」


 冬華が俺の目を見てそう言った。


「うん、分かってて聞いてる。俺の予想じゃ幻覚と幻聴だろお前らの持ってる症状、当たりか?」

「ユウ先輩、馬鹿だと思ってたけど意外と頭回るんですね」

「馬鹿は余計じゃい!」


 まぁ全て月夜先輩の推測なのだが、白状すると馬鹿扱いされそうなので黙っておくことにした。


「つーことは当たりでいいの?」

「まぁ、はいそうですね」

「ふーん、そうなんだ。夏華、そのポテト一口くれ、迷ったんだよソッチにするか」

「興味無さげッ!? 」

「いやだって当たってんだろ? じゃあお終いだよ話は」

「私も冬もちょっとシリアスモード入ったんですけど! どうしてくれんですかこの空気! 見てください、冬華とかさっきキメ顔してたから照れちゃってますよ!」


 視線を向けると耳の先まで真っ赤にしている冬華、どうやら俺のような手合いを相手にするのは初めてらしい、まだまだ小娘だな。

 

「いや知らんし、つーかマジで顔赤いじゃん冬華、大丈夫か?」

「サラッと名前呼びですかユウ先輩」

「そういう夏華後輩もユウ先輩呼びじゃん、大差ねーだろ」


 ケラケラと笑いながらそう言うと夏華も冬華も「ですね」と呟いて笑っていた、三十分程だが随分と俺の評価は上がったようだ。見たか雨乃、これがコミュニュケーション能力というものだよ!


 トレイを返しながら適当な会話をしながらショッピングモールの出口を目指す、暁姉妹はココが最寄りの駅らしいがもう既に日も暮れているので近場まで送っていくと言うと二人共素直に頷いた。

 ピンク髪二つに茶色髪一つの制服姿は随分と目立つようで通行人の目を引いている。


「ユウ先輩もアレですか、チカラに目覚めてから髪の毛の色変わったんですか?」

「そうだな、お前らもだろ」

「はい、夕陽先輩いいなぁ、茶色で」


 冬華は髪の毛先を指で弄りながら自虐的に笑う。


「私この色だから結構大変で、夏も私に気を使って同じ色にしてくれたんです」

「気を使ったんじゃないよ、私は冬の髪好きだから」

「姉妹仲良くて結構なことじゃん」


 話してみると意外といい子達だった、でもそれは俺が症状持ち……同族だからこそ心を開いているだけかもしれない。彼女達が他者に向ける攻撃性が高いのは既に証明されている。

 どんな言葉を掛けてやるが正しいのだろうかと考えながら適当な会話をしていると不意に夏華と冬華の足が止まった。視線の先には複数人のガラの悪い男達、歳的にはあまり俺達と変わらないが不穏な空気を纏っていた。


「居た、ピンク髪の双子」


 体格の大きな金髪のリーダー格のような男がコチラを指さした、不穏な予想は的中……最悪なことにどうやら狙いは暁姉妹らしい。

 状況が飲み込めずに居るとポケットの中のスマホが突如として震える、取り出して画面を見ると南雲からの着信だ。


「南雲どうした、こっちもヤベぇんだけど」

『夕陽、不味いことになったぜ。隣町のチームのやつ締め上げたら吐いたんだがよ、今コイツら躍起になってピンク髪の双子探してるらしい』

「やっぱりか、だよなぁ!」

『は? どういう事だよ』

「今目の前にいんだよ、ソイツら」

『暁姉妹と一緒にいんのかお前!?』


 男達がコチラに歩み寄ってくる、夏華と冬華が怯えるように俺を見た。


「南雲、とりあえず雨乃に連絡しろ! 場所はアイツが教えてくれる、んで速攻で駆けつけてくれ数が多い」

『分かったけどお前大丈夫なのか!?』

「大丈夫じゃねーから早く来てくれ」

『お前だけでも逃げろ!』

「馬鹿言うな、逃げれるわけねぇだろ」

『ま、お前ならそう言うよなぁ……分かった、すぐ駆けつける、俺が来るまで耐えろよ』

「耐久ゲーで俺に勝てるやつなんて居ねぇよ、気合と根性で何とかしてやる」


 見捨てて逃げる選択肢も当然ある、というか多分そっちの方が正しい。

 だが事情の分からない今、知り合ったばかりでも後輩の女の子二人を見捨てて一人だけしっぽ巻いて逃げるのは寝覚めが悪い、それにカッコよくない。

 

 南雲との通話を切って、暁姉妹に伸びる男の手を掴んで男と暁姉妹の間に割って入る。


「俺の後輩になんか用かよ」


 化学部の活動は最終的に荒事に結びつくことが多いのだ。まぁだから想像の範囲内ではある。

 結局こうなるのか、心の中で呟いた。

 

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