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-evening rain-  作者: 輝戸
ステージ1
5/15

4話 daily 2


「夢芽、居るー?」


 保健室の扉を開きながらそう言うと個室のように仕切られたカーテンからひょこっと顔を出して嫌そうな顔する夢芽が現れた。


「やっぱり来たか」

「なに、見てたの」

「さっき仮眠を取った時にね、夕陽が来るのが見えた」

「そしてついでに俺もいる」

「んだよ、南雲もいんのか」


 ひょこっと顔を出す南雲。

 保健室のヌシの夢芽と不良少年でサボりの常習犯の南雲はどうやら保健室友達らしい。

 保健室の先生が居ないのをいいことに、俺もベッドに腰掛けてゲーム機を取り出した。どうせコイツら一狩りやってたんだろう。


「つーかお前教室出てくりゃいいのに、静音もいんだろ?」

「ボクは人付き合いが得意じゃないんだよ」

「高校生にもなってボクっ娘やってっからだろうが。あ、クエスト貼るから手伝って」

「よし決めた手伝わない」

「いや、ひとりじゃ勝てないんだよコイツ」

「どれで詰まってんの……あー、こいつね俺も夢芽に手伝って貰ったわ」

「南雲は手伝って貰ったんだろうが! 差別だぞ!」

「なんで手伝って貰うのに偉そうなんだ馬鹿!」


 ぶーぶー言いながらも手伝ってくれる夢芽、流石だねこれが雨乃なら絶対手伝ってくれない。


「ねぇねぇ夢芽ちゃん、雨乃と俺が付き合う未来とか見えないの?」

「見えない見えない、真っ暗闇だね」

「見てから言えや!」

「見ていいの? 絶望するよ多分、あっ龍太そこ罠張って」

「ほいほい、つーか夕陽もめげないねぇ。あんだけ冷たくあしらわれてんのに」

「お前は雨乃の理解度が足りてねぇーんだよ、夢芽言ってやれ」

「雨乃は興味無い人とか嫌いな人には冷たくもしないよ、つまり夕陽は良くて弟扱いか玩具扱いだね!」


 うーん、悲しくも残酷な真実である。

 まぁでもいいんだ、好意的に見られてるのには間違いないから、ゆっくり外堀埋めていくんだ。


「もう埋める外堀もないだろ、埋めきっただろ君の場合は。埋めきったのにテトリスみたいに積み上げてる」

「心を読むな雨乃でもあるまいし、つーかテトリスなら消えるだろうが!」

「ゲームオーバー手前って事だろ?」

「龍太、正解!」

「よぉし! お前らなんてぶっ殺してやる」

「やーい、死んでやんの〜」


 頭の血管がぶちりと切れた、夢芽と南雲のコンビプレイの煽り芸に冷静さを失った結果、ゲーム内で無惨にも殺され挙句の果てに現実でも虐められる。

 俺がキャンプに戻されている間に夢芽と南雲がモンスターを倒していた、剥ぎ取りもできない!


「もういい、二度とやらんわこんなクソゲー」


 ゲーム機を放り投げてベッドに寝転がる、このまま昼過ぎの惰眠を貪りたいが授業サボりは雨乃さんスタンプが一つ溜まる。今日はもう一個貯まっているのでこれ以上貯める訳にはいかない。


「そんで、なんでボクの所に来たんだ? なにか理由があるんだろう」

「月夜先輩が新入生の中に症状持ちの目星をつけてるらしくてな、状況によっちゃお前の症状使って欲しくて」

「症状狩りしてんのまた」

「お前なんでそんな人聞きの悪いこと言うわけ? 誤解されちゃうでしょ?」


 夢芽は「ま、ボクが必要な状況になったら言いなよ」と一先ずは協力的な姿勢を示してくれた。


「後はまぁ近々部室に集合だってよ、お前もこい」

「えーやだ、歩くのめんどくさい」

「南雲、運んでやれ」

「えーやだ、運ぶのめんどくさい」

「お前らのがめんどくさいよ」


 まぁとりあえずやるべき事はやったし、クリア出来ないクエストはクリア出来たし良しとしよう。

 南雲と夢芽はまだまだゲームに興じるらしく、保健室を後にする俺に手を振っていた。お前ら何しに学校来てんだマジで。

 保健室を後にして自分の教室に帰る道すがら、視界の端でピンク色の髪が揺れた。


「……」


 アレが月夜先輩の言ってた双子の片割れか。

 通り過ぎる刹那、確かに彼女と目が合った気がしたが足早に俺の脇を通り抜けてどこかに去った。


「なになにユッヒー、アーちゃんから浮気して後輩女子に手を出そうとしてんの」

「ユッヒー言うな、しかも違ぇし! 雨乃さん一筋だし俺!」

「んで、あの子と何かあったの?」


 横あいから突然人の肩に手を回して来るのは静音だった、マイペース女め。


「いんや、あの子も症状持ちらしくてね」

「あー月夜先輩案件?」

「そうそう、あの子の噂とか聞いてない?」

「俗世と関わりがないユッヒーやアーちゃんと違って私は俗物だからねぇ。色々と知ってるよ」

「教えてくれ」

「つーかマジで知らないの? 有名だよ?」

「もう有名なの? 凄いね、ヒロインじゃーん」


 適当な相槌を打っていると静音は真剣な顔で俺を見た。


「あの子ら、結構やばいよ」

「あん? 何がだよ」

「入学早々問題起こしまくるらしくてね、ほら派手な髪色じゃん? 当然、色々文句言って来たり陰口叩く奴らも居るらしくて」


 まぁ、あんだけド派手なピンク髪じゃな。


「あの子らのクラス、もう三人も不登校が出てるらしい」

「なんの関係があんの?」

「察しが悪いね、みんなピンク色の双子に絡んだ連中だよ」

「……まじかよ、めんどくさくなりそうだなぁ」

「既に要注意人物リスト入だよ、つまりユッヒーやナグモンのお仲間だね」

「おい待て、俺と南雲を同列に扱うな、アイツの方がだいぶヤバい」


 つーかナグモンってなんだ、ちょっと可愛いな。


「関わるんだったら頭に入れといた方がいいよ、一年生きってのヤバい双子だからね」

「名前は?」

「暁姉妹、姉の方が夏華で妹の方が冬華」

「やっぱり双子ってのはロクでもねぇなぁ……」

「あ、なんだかシーちゃんお腹痛くなってきたァ!」


 我々幼馴染五人衆は全員双子に拒絶反応があるのだ、理由は全て俺の姉達のせいである。


「ま、いいや情報サンキュな」

「ほーい、あんまし無茶やったらスタンプ速攻で溜まっちゃうよ」

「もう8個目だよ。静音、お前も近々部室集合な」

「りょうかーい!」


 静音との会話を切り上げて教室に戻ると雨乃はイヤホンを刺して静かに読書をしていた。

 瑛人辺りをイジって時間を潰そうかと思っていたが教室に姿はなく、集中して読書している雨乃の邪魔をするのも忍びなくてただただその横顔を見つめていた。


「うるさい」


 読書もイヤホンもしたままだが雨乃は静かに呟いた。

 俺と雨乃との会話は時間も場所も、ましてやその時の行動も障害にはならない。

 

「今なんにも考えてなかったけど」

「視線がうるさいのよ、かまって欲しいならそう言いなさい」

「なに、言ったら構ってくれんの?」

「いや、無視する」

「ひっでぇ!」


 とは言いつつも構ってくれる可愛らしい幼馴染である、鼻歌混じりに通学バッグを枕にして午後の惰眠を貪ることにした。


 ・・・


 べしっと頭を叩かれて睡眠を切り上げて顔を上げると目の前には瑛人が立っていた。周囲を見回すと既に夕暮れ、なんと5限から放課後まで眠りこけていたらしい。


「なーにすんだ」

「なーにすんだじゃねぇよ、月夜さんから招集かかったぞ。雨乃達はもう行ってる」

「にゃんですと、あんの野郎近々とか言ってやがったのに今日になったのか」

「今日だと都合悪いのか?」

「いや別になんも無いけど、強いて言うなら雨乃と帰ってスーパーで食材買ってご飯食べて寝るだけ、幸せな毎日だ」

「付き合ってないやつの惚気ほど虚しくなるものは無いな」

「黙れ公爵」

「まて、辺境伯辺りにしろ!」


 というか起こされるなら雨乃が良かった、なんで瑛人なんだ……ただでさえ寝起きは機嫌が悪いのにむさ苦しい野郎の顔なんて見たくない。

 帰り支度をしながら瑛人にチラリと目をやると既に部活のユニフォームに着替えていた、化学部が終わり次第サッカー部の方に参加するらしい、忙しい奴だな。


「つーか静音から聞いたけど今度の症状持ちは暁姉妹らしいね」

「なんだ、瑛人も知ってんのか?」

「知ってるよ有名だもん、お前や南雲とか同レベルでヤバいやつらしいし」

「だからお前も静音も南雲と俺を同列に扱うな、心外だ」

「俺がなんだって」


 階段の上から声がかかるや否や、俺と瑛人の目の前にカットインしてくる南雲。お前、階段は降りるものであって飛び降りるものじゃないんだけど。


「俺がコレと同類? 勘弁しろよ瑛人」

「まぁ確かに、コレと同類扱いは酷いかもしれない」

「なんだなんだぁ、藪から棒にコレ呼ばわりかよ!」


 南雲は着崩した制服のポケットに手を突っ込んで先導する形で俺達の前を歩く、こいつも化学部なのだから当然っちゃ当然なのだが何だかリーダ面が気に食わない。


「俺、お前らとつるんでるせいで割と学内の評価すんごい事になってんだけど」

「お前らってか南雲だろ大元は」

「俺が言えた義理じゃねぇけど去年あんだけ暴れといて俺だけのせいにするのは無理あるぞ夕陽」


 俺に着いて回る悪評の半分は雨乃関連だが、もう半分は去年の月夜先輩達と繰り広げた大立ち回りのせいでもある、つーか全部俺のせいじゃない。


「今回もどーせ南雲が暴れて後処理に追われる未来が見えるなぁ」


 遠い目をして呟く瑛人の尻を南雲が軽く蹴り上げた。


「今回の症状持ちは女らしいから俺はノータッチだよ、そこの馬鹿が相手すんだろ」

「おいおい、やめろよ押し付けてくんの。つーかアレじゃん瑛人、女の子だぞ? 上手いこと行ったら付き合えるかも」

「暁姉妹、顔は可愛いけどね噂で聞く限り性格ヤバいらしいし俺はパスで。俺は付き合うならもっとフワフワしてて繊細な女の子がいいのだ」

「高望みしてるから爵位が上がんだよお前は」

「上げてんのお前らな!」

「ちょいちょい、爵位って何の話?」

「もうちょいしたら瑛人が失恋王になるって話だよっと、遅れやした〜」


 ケラケラ笑いながらドアを開けると我が幼馴染の女子三人がキャッキャウフフと楽しげに会話していた、そしてこの部屋の主であるはずの月夜先輩は端の方に追いやられている。


「来たね三馬鹿」


 月夜先輩が助けを求めるような顔で、全く助ける気の湧かない言葉を口にする。

 

「「「誰が三馬鹿だ!」」」


 重なる俺と瑛人と南雲の声、お互い顔を見あって額をぶつけてメンチの切り合いをしていると背後からグイッと首根っこを引っ張られて引き剥がされる。足が地面につかない不快感を味わいながらジタバタしながら俺は抗議の声を張り上げた。

 こんなことが出来る人間を俺は1人しか知らない。


「なにすんだよ茜さん! 馬鹿やってたのは俺だけじゃねぇだろうが!」

「お前が一番馬鹿だろうが夕陽、月夜を困らせるな」

「過保護か! アンタがそんなんだからいつまでたってもそこのモヤシが成長しねぇんだぞゴリラ!」


 言うが早いか俺の身体が宙を舞い、壁に突き刺さった。


「馬鹿だなぁ夕陽、茜さんに逆らうとか」


 とは南雲の言。

 俺は揺れる視界を何とか正常に戻して茜さんをキッと睨むと溜息混じりに南雲と瑛人の頭にゲンコツを落とした。

 当然ゲンコツを落とされた男二人はその場で蹲り頭を抑えてジタバタしていた。


「喧嘩両成敗ってな、悪いね月夜遅れた?」

「いいや、ちょうど良かったよ茜。とりあえず揃ったし始めようか」


 俺達三人は頭を抑えながら席に着く。

 当然俺は雨乃の隣をキープした、痛む頭を優しくヨシヨシしてもらうのだ。


「ヨシヨシってどの程度の力? 思いっきりやればいい?」

「ヨシヨシって字ズラから想像できるくらい優しくだよ!」


 そして当然のように月夜先輩の隣を陣取る茜さん。

 西園寺 茜(さいおんじ あかね)、いかにも可憐なお嬢様ですという苗字からは想像出来ないほどの風格と生徒会長だというのに燃えるような真っ赤な髪をしている三年生。

 実質的なこの部の部長であり、活動に掛かる費用や部室の設備なんかを全て太い実家の財力で賄う月夜先輩のパトロンにして彼女である。

 

 そして当然ながら燃えるような赤い髪は症状持ちの照明であり、彼女の症状は夢芽のようなチートである。

 その症状とはシンプルな肉体強化、デメリットは筋肉痛だが鍛え上げた肉体の前ではデメリットがデメリットとして機能していない。スーパー完璧ゴリラ女なのだ!


「茜さん、今夕陽が脳内で茜さんのことをゴリラ呼ばわりしていました」


 おい待て、雨乃俺を裏切るな。

 

「三回転半死ね」


 言うが早いか飛来した空き缶が俺の額にクリティカルヒット、椅子から転げ落ちた。

 額を擦りながら俺は再度椅子に座り、隣の雨乃に抗議の視線を向けるが涼しい顔でスルーである、ちくしょう涼しい顔もかわいいね!

 月夜先輩はケラケラと笑いながら全員の顔を見回して首を傾げた。


「あれ、逢坂くんは?」

「逢坂なら入院中です、先日隣町のヤツらにボコられまして」


 南雲が答える。

 つーか、なんだ隣町のヤツらにボコられたって、どこの不良漫画の世界だ、ドン引きする。


「あーそうなんだ、お大事にね。じゃあ、そろそろ話を始めようか」


 月夜先輩は非常に冷たいセリフを吐くといつものように勿体ぶらずに本題を切り出した。


「一年生、暁姉妹は間違いなく症状持ちである事が確定した。だから早いところ、彼女達をここに呼びたいんだが」

「不穏な前振りだなぁ!」

「ま、去年の君達幼馴染五人衆と一緒だよ」


 幼馴染五人衆というクソダサい名称に雨乃と夢芽と静音が眉をひそめたが瑛人は何故か鼻を鳴らしていた。


「徹底抗戦の構えだ。そして彼女達どうやら症状を使ってめちゃくちゃしてるらしい」


 月夜先輩は溜息混じりに頭をかいて呟いた。


「今回の活動は暁姉妹を止めて平和的に話を聞くことだ」


 今回の「活動」とやらも随分と骨が折れそうであった。


 

 



 

 

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