18話 interrogation
先程の緊迫感とは打って変わった険悪な雰囲気での夕食……という名の尋問が始まった。
なんで黒幕(仮)を追っ払った後の家での夕食のほうが雰囲気悪いんだよ、バグだろこれ。
「それでアイツ、何?」
あの後、不機嫌な雨乃に「じゃあ急いで卵買ってくるから!」と言ったら「目を離すとろくな事がない」と言われて二人でスーパーに行った。傍から見たら買い物デートだがまったくそんな楽しいものではない。
ずっと怖かったし雨乃さん。
「さ、さぁ?」
「ふーん」
あぁまずい、聞かれると思い出しちゃう。
雨乃にどうせ思考読まれんのに、南雲との悪巧みとかいろいろ。
「ふーーーん、南雲君との悪巧みって?」
「ずるじゃん! それずるじゃん!」
「うるさい黙れ答えろ馬鹿」
「ひぃ! 怖い!」
明らかに不機嫌、誰がどう見たって不機嫌である。
「いやぁ、実はね? 南雲がね? この前の不良締め上げた時に黒と白の髪の女が絡んでるって言うのを聞き出したらしくてね?」
「黒と白の巨乳?」
「くっそ俺の脳味噌! そこまで思い浮かべるな!」
「それで?」
「南雲に色々探らせて、見つかったら南雲と二人で色々しようかなーって思ってて」
雨乃は舌打ちをしながら味噌汁を啜った、俺は怖くてご飯に手がつけられてない。だって今食っても味しないし。
「なんで私に言わなかったの?」
「暁姉妹だけならコレで終わりだけど俺とか雨乃まで的に掛けられるてる可能性があったから」
「なんで、私に、言わなかったの?」
「それはぁ、あのぉ、ごめんなさい」
こうなるからです! 雨乃は俺が厄介事に首突っ込むと死ぬほど機嫌が悪くなるからです!
「そりゃなるでしょ、ロクな目に合わないじゃん夕陽。いっつもコソコソなんかして、私が気がつく時にはボロボロになってる」
「返す言葉もございません」
「しかも暁姉妹の件でボコボコにされて暫く大人しいかと思ったら……次は何? あんな巨乳女に絡まれて」
「それに関しては俺被害者だと思うんだよね!」
「てか、頬傷ついてるじゃん」
「え、あー、そういやそうだ。いいよ、どうせすぐ治るから」
「ダメ! ご飯食べたら手当するから!」
「はい、分かりました」
くっそ覚えてろ旭、アイツ次出くわしたら純度100%の八つ当たりしてやるからな。
「夕陽、私との約束言ってみて」
「1つ、雨乃に嘘つかない。2つ、雨乃に隠れて厄介事に首突っ込まない。3つ、無茶しない」
「最近全部破ったよね」
「はい、すみません」
もうこうなりゃ謝り倒すかない、謝って謝って機嫌とるしか解決方向がない。
「今回の件、スタンプ2個ね」
「大将! どうか寛大な処置を!」
「巻き込まれたからスタンプ1個、私がムカついたからスタンプ1個」
「おい! 最後のは俺のせいじゃねぇじゃねぇかよ!」
暴君にも程がある、だいたいこの前のスタンプ溜まりきっててお仕置があるのに、消化する前からもう溜まりだしたぞ!
「なんで言わないかなぁ、私に」
「心配かけたくねーんだよ」
「どのみち心配する」
「お前に厄介事に巻き込まれて欲しくない」
「まったく同じセリフ返してあげる」
そう言われては返す言葉もない、俺が雨乃を思うように雨乃も俺を思ってくれている。
それ自体は嬉しいことなのだが、やはりここだけは譲れないのだ。彼女に火の粉が降りかかる前に、その全てを打ち落とすのが俺の役目なのだから。
「結局、もう首輪つけて離れないようにするくらいしか解決策ないよね」
「せいせいせい雨乃さん!? とんでもないこと言ってるぜ」
「私に首輪つけられたくないなら、これ以上厄介事に首突っ込まないで」
「悪いが無理、ブロッコリー食わされようがお仕置されようが絶対に無理」
今回の旭の一件で分かってしまった。相手が症状持ちを回収しようとしていること、そして俺と雨乃の症状が向こうに割れていること。現状を加味して、ここで手を引く要素が1つもない。
なんせ人の心を読む症状なんて使い勝手は置いといても欲しがるやつは幾らでもいるだろう。現状、雨乃は危険な立場だ。
「……じゃあせめて事前に相談して」
「善処する」
「しないやつじゃん」
まぁ多分しないだろうな、いざそういう状況に陥れば必ず俺は雨乃を蚊帳の外に置く。それはもう今更言ったってしょうがないことだ。
「はぁ……なんでそこまでするのか」
「お前が大切だからだよ」
言ったあとで我ながらなんて事を言ったのだと自覚した、顔が熱くなっていく。
どうやらそれは向こうも同じようで顔を真っ赤に染めて視線を逸らしていた。
「……スタンプ1個にしたげる」
「ひゅー! 雨乃ちゃんマジ最高、愛してる」
「ムカつくなぁコイツ、全然反省の色がないし」
反省と俺とは犬猿の仲であるから仕方の無い話である。
・・・
「つーわけよ」
『お前ってほんと3歩あるけば厄介事引き連れてくんね』
自室でスマホを耳にあてながら、一応南雲に今回の件を全て報告したら心底呆れたようにそう呟いていた。
『洗脳ねぇ……いよいよ超能力バトル漫画じみてきたな』
「それな。まぁでも厄介なモンだが、その分の副作用なり後遺症はあると思うぜ」
無条件で使えるのならばそれは能力だが、俺達がこれを症状と呼ぶのはメリットだけではないからだ。
使えば必ず代償なり反動なりを受ける。
『どうする? 今後』
「なにが?」
『伊勢にバレたんだろ? なら俺らだけの内々で済ませとく必要ねぇーんじゃねぇか?』
「あぁ確かにな、嘘かもしれんが一応は症状の発動条件もわかったし情報共有しとくか」
他の連中がうっかり洗脳に掛けられる可能性を潰しとくって点では、とっとと全員に情報を流しておいた方がいいだろう。瑛人とか秒殺で洗脳されそうだし。
『とりあえず旭だっけか? ソイツの捜索は続けるか?』
「そうだな、見つけて情報吐かせねぇことには何がしたいか分からん。症状持ちの回収とか言ってたが、もし本当なら単独犯ってことはねぇだろうし」
『お前らの症状が割れてんなら、他のメンツも全員割れてるって考えた方がいいな』
「だな、特に雨乃と夢唯辺りは危ねぇ……症状が便利すぎる」
本人達に言わせてみれば使いずらいと言うだろうが、彼女達の症状はデメリットを差し引いても魅力的だ……回収が目的の連中が狙わないはずがない、特に夢唯の症状は。
『伊勢はお前、夢唯は俺だな』
「ま、そうなるなぁ」
『了解、月夜先輩はどうする?』
「あー、うーん……まぁ近いうちに時間取るわ」
『んじゃ、明日夢唯には言っとくわ』
「おう、頼んだ。それじゃあな」
溜息を吐きながら通話を切った、考えなければ行けないことが多すぎる。
「また、悪巧み?」
「ちげーよ、作戦会議だ」
気がつくと背後には雨乃が不機嫌そうな面してたっていた。
「雨乃、どうする?」
「なにが?」
「暁姉妹だよ……今回の件、全部話すか?」
「難しいわね、まぁでも当事者だし話してあげていいんじゃない?」
「ならそうするか」
「あんた初めから考えてなかったでしょ」
「うん、雨乃に決めてもらおうと思って」
面倒くさいことは考えたくない、人の気持ちとか言われてもその辺あんまり得意じゃないし。なので昔からこういう場合は雨乃の判断に無条件で従うことにしているのだ。
「何よそれ」
「だってそうだろ? 俺が考えるより雨乃が考えた方が速いし正しい」
「なーんでこんな男になったんだか」
呆れながら雨乃は溜息を吐いた。
「そういうとこ治さないと社会に出て苦労するよ夕食」
「ま、そこはおいおい考えるさ。目下の課題は旭と症状関連だ」
俺がそういうとこ雨乃は呆れながら自室に歩いていく「明日寝坊すんなよ」と言い残して。
あぁそうだった、明日は雨乃と暁姉妹と出かけるんだった。何処に行くかも聞かされちゃいないが、まぁ何とでもなるだろう。
ベッドに横になり色々と考える。
今最優先で考えるべきことは一体どこから症状が漏れたか……という事だ。暁姉妹のように目に見えるものならまだしも俺や雨乃の症状が割れているのは気になる所である。
考えられる可能性は身内に情報を流しているやつが居る可能性。
この場合、幼馴染5人と南雲は除外してもいい。
暁姉妹は襲われてるので当然除外、茜さんも回りくどいことしなくても暴力で解決できるから除外するとして……残る可能性は月夜先輩か相坂の二人になる。
「相坂ねぇ」
相坂というのは俺達の一個下の学年に在籍する南雲の舎弟だ。彼とも一年前の大立ち回りで出会ったが南雲の舎弟というだけあり古き良き不良少年、こんな裏工作みたいなことを南雲を裏切ってまでするだろうか?
第一アイツは今入院してたはずだ、近いうちに雨乃でも連れて見舞いに行くついでに探らせればいい。
と、なるとやはり一番怪しいやつは。
「月夜先輩だよなぁ」
旭がしきりに彼の名前を出していたのも引っかかる、月夜先輩が裏切り者と思わせるミスリードだろうが、あの男が何か隠しているのは確実だ。
「どのみちゴールデンウィーク中にケリつけねぇとな」
とりあえず方針は決まった、ゴールデンウィーク中に時間を取ってあの野郎をとっちめねばなるまい。
そんな決意を固めているとスマホが震えた、どうやら着信が入ったらしい。誰だ? 瑛人辺りが暇でかけてきたのか?
「おっ?」
スマホの画面に表示された名前は瑛人ではなく兄貴。
『よぉ、青少年まだ起きてたか?』
「どうしたんだよ兄貴!」
『相変わらず元気いいなぁ。いやなに、ゴールデンウィーク中顔出すって話は伝わってるかと思ってな』
「聞いてる聞いてる! いつ来るんだ?」
相も変わらず覇気のない声音、通話越しにも兄貴のヘラヘラした笑い顔が見えてきそうだ。
『二日後だな、雨乃いるか?』
「いるいる、ちょっとまってて。おーい! 雨乃! 兄貴から通話来たー!」
俺がでかい声でそう叫ぶと隣の部屋の扉が開く音がして雨乃が部屋にやってきた。
「夕帆兄?」
「そそ、二日後だって」
スマホをスピーカに切り替える。
『よう、雨乃。弟が迷惑かけてるね』
「ほんとよ! どうなってんの」
『悪い悪い、でもしょうがない親父とお袋の息子だしな』
「アンタもだろうが兄貴!」
『そりゃそうだ。天斗さんと琴音さんってなにが好きだったっけ? そっち行く前に買ってこうと思って』
「気を使わないでいいよ別に、お父さんとお母さんも気にしないから」
『そういう訳にもいかんさ、もう二十歳も超えてんだから』
相変わらずマイペースな男である、こんなのほほんとしてるくせに昔から成績優秀で運動神経抜群の完璧超人なのだから嫉妬する気も起きやしない。
「何泊すんだ?」
『とりあえず一泊だけだよ、雨乃と夕陽の愛の巣に長々と兄貴が居たんじゃ邪魔だろう』
「大丈夫よ夕帆兄、いざとなったら夕陽追い出すから」
「雨乃さん!?」
『あとバイク止めるとこってあるか?』
「家の駐車場の端っこ止めて大丈夫だと思うよ」
それから暫くはくだらない話をしながらも兄貴は必要な情報を聞き出すと満足気に笑っていた。
『まぁ、積もる話はそっち行ったらしようぜ。ちょっとばっかし夕陽と二人で話させてくれ』
「わかった、来るの楽しみにしてるわ。あと、夕陽のこと叱っといて! 夕帆兄の言うことなら聞くだろうから」
『絶対聞かないぞコイツ』
残念だが兄貴が正しい、俺の中の命令権の最上位は雨乃なのだ。その雨乃の言うことですら聞かないのだから兄貴じゃ無理な話である。
雨乃が部屋から出たのでスピーカーから普通の通話に切り替えると、やけに兄貴は真面目なトーンで声を漏らした。
『お前、なんか厄介事に首突っ込んでのか?』
「まぁまぁ、いつも通りだよ」
『じゃあ突っ込んでんなぁ、その辺の話は会ってからでいいか。それより身体になんか異常はねぇか?』
「あ? どうしたよ突然」
『いやなに、可愛い弟が大丈夫かなと思ってよ』
「元気いっぱいだぜ」
俺は基本的に元気が取り柄の男だ、大怪我してもすぐ治るし。
『最近大怪我したか?』
「しらね、病院行ってねぇし。ほら、俺すぐ治るから」
『この辺もお前に聞くより雨乃に聞いた方がいいなぁ』
「おいやめろ、雨乃が思い出したら機嫌悪くなんだよ! 兄貴が帰った後にお仕置されんだろうが」
『尻に敷かれてるようでなにより』
兄貴はケラケラと笑いながら『まぁ、いいや』と呟いた。一体何が聞きたかったのだろうか? 突然俺の体の心配するなんて……もしや家族に何かあったか?
『あぁ心配すんなよ、俺も下の双子も親父もお袋も元気いっぱいだ』
「見透かしてんじゃねーよ、じゃあなんで聞いたんだ不安になんだろうが」
雨乃でもないのに相も変わらず人の内心を見透かすのが得意な奴だ。
『いやさっきも言ったろ? 兄貴としちゃ可愛い弟の健康は心配になんのよ、お前の場合特にな』
「できの悪い弟ですまんね」
『できの悪い兄貴のせいだ、気にすんなよ』
「嫌味に聞こえるなぁ〜。まっいいや、じゃあ二日後楽しみにしてる」
『おう、土産いっぱい持ってくから楽しみにしてろ。じゃあおやすみ』
そう言って通話は切れた。
明日が暁姉妹、明後日が兄貴……となると月夜先輩の件はゴールデンウィークの後半に固まることになりそうだ。
今年も随分とイベント目白押し、楽しいゴールデンウィークになりそうだった。
17話はルビの仕組みが分からず色々と弄っている内に訳の分からないまま反映されていました、気がついて恥ずかしかったです。以降ないように心がけます!




