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-evening rain-  作者: 輝戸
ステージ1.5

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16/35

15話 daily3


 学校の授業なんてなんの役に立つのだろうか、大方使い古された俺ら位の歳のやつなら一回は吐くセリフを例に漏れず呟いた。

 朝の幸せな空気も束の間、突然の小テストを顔面にお見舞されノックアウトされた俺は眠りこけて気がつけば昼休み。


「テスト、教えてやんないからね」

「それは困るよ雨乃ちゃん!」

「毎回毎回毎回毎回、授業聞いてりゃ分かるでしょ」

「お前の幼馴染はおバカなの!」

「夕陽先輩より多分私の方が頭いいですよ」

「黙れ冬華、当然のようになんでいる!」


 こいつ、このまま俺と雨乃の昼飯に今後も同席するつもりじゃないだろうな? クラスで友達作りなさいよ、一年から先輩とばっか仲良くしてると三年に上がったあと地獄だよ。


「つーか夏華は?」

「さぁ? 三限の時に連絡来てたんでもうすぐ来るんじゃないですかね」

「いいなその自由な登校! ねぇ雨乃、俺もやりたい!」

「馬鹿なこと言った夕陽から卵焼きを没収します。冬華、食べる?」

「やったー! 夕陽先輩馬鹿でありがとうございます」

「助けなきゃよかった!」


 すっかり後輩女子からモテモテな雨乃、八割型飯で人気を勝ち取っている。まぁ俺も胃袋握られているので気持ちはわからなくも無い。


「夕陽先輩、雨乃先輩。連休暇ですか?」

「まぁ予定……あるのはあるが暇な日もあるぞ」

「私も同じく」

「じゃあじゃあ遊び行きましょうよ! 沢山お世話になったんでご飯くらいなら夏と私でご馳走しますよ!」

「やった雨乃焼肉食おうぜ」

「食べ放題がないとこね、任せて」

「私ら高校生です! しかも後輩なんですけど!? 躊躇とかないんですかね!」

「ないね」

「ないわね」


 つーかほんとに俺の卵焼き全部取られたし、本気で焼肉行こうかな。

 何気に雨乃の卵焼きは好物なのでショックではある、午後頑張れない。まぁ頑張る気もないけど。


「はぁ、ほら夕……」

「はい夕陽先輩、お返しに家の卵焼きどうぞ」


 ずいっと口の前に持ってこられた暁家の卵焼き、気を使った冬華が卵焼きをトレードという形にしたのだろう。なんやかんや言っても気の利く後輩である。

 差し出された卵焼きをそのまま食べると家のとは違って少し塩気が聞いてて美味しい、我が家の……つーか雨乃の卵焼きは砂糖が結構入っているので甘めなのだ。これはこれで美味い。


「わ、夕陽先輩。あーんなんて大胆な」

「一々気にしてねぇよ」

「ふーーーん」

「あっ、なんか背筋に鳥肌が」


 なんかよく分からんが雨乃の地雷を踏んだ匂いがする。

 というか無遠慮に冬華に差し出された卵焼き食ったのは俺が悪いが、普通に流れで食うだろ今のは。

 つまり無罪! なんて内心で雨乃に言い訳していると背中に衝撃が走った。


「ゆー先輩酷い! 私というものがありながら」

「どちら様ですかね、お前みたいな先輩の背中にタックルカマしてくる後輩はしらん」

「またまた照れちゃって、かわいい〜」

「うっぜ、こいつうっぜ! おい冬華、お前の片割れどうなってんの?」

「初期仕様ですね」

「初期不良の間違いでは?」


 たっぷり寝たおかげで元気いっぱいの夏華後輩は俺の頭の上に顎を乗せるのが気に入ったのかそのまま続行するつもりらしい。

 つーか今の現状、背中に後輩女子、対面に雨乃、その隣にもう一人後輩女子を侍らせてることになってるな? 瑛人に見つかれば命がない。


「おい離れろ、命の危機をビンビンに感じてる」

「嫌よ嫌よも好きのうちってね」

「おい冬華、このアホ引き剥がせ!」

「そうだよ夏! ずるい! 次私の番、交代して!」

「そういうこっちゃねぇだろうが!? 見つかったら瑛人に殺されんだぞ!? 雨乃さん、何とかして!」

「ふーーーん、へぇ、ふーーん」

「こっちはこっちで怖いし!」


 こいつら俺にじゃれてるだけかと思ったが、どうやら窮地に立たされる俺の姿を見るのが好きなのではないだろうか? つまり敵だなコイツら。

 はっ、殺気! 振り向いた先には血の涙を流す瑛人。


「殺す」

「ご馳走様でしたッッッ!」


 爆速で弁当をかきこんで俺は全力疾走で教室を後にする、食後の運動にはだいぶハードな鬼ごっこが始まった。

 だがどれだけ脇腹が痛かろうが走るしかない、背後には人間を辞めた何かが迫ってきている!


 ・・・


「お疲れ様」

「じぬ……まじでしぬ……うぇ吐きそう、やべぇ吐いていい?」

「絶対やめてくれ!?」


 逃げ込んだのは月夜先輩の鎮座する科学準備室、一旦屋上に行くと思わせて階段で奴の視線を切り、踊り場を飛び越えて下の階に逃げ込んだのだ。

 今頃やつは屋上で南雲と鉢合わせている頃だろう、奴の相手は任せたぞ南雲! 心の中で熱いエールを送りつつ目の前に差し出されたコーヒーに口をつけた。


「気分的には炭酸欲しい」

「うーん、後輩が遠慮を知らない」

「後輩ってのは遠慮ねーもんだよ、俺も今しがた知ったけどな!」


 俺達以外に後輩が居ないであろう月夜先輩は知らないだろう……喉元まで出かけた言葉は投げつけられた炭酸と相殺してやることにした。


「君は毎日幸せそうだねぇ」

「そうかねぇ、いやそうだわ雨乃いるし」

「君のいじらしい恋心が実るのはいつになるのやら」

「おっ、なんだ月夜先輩? 自分が彼女持ちだからって嫌味か? 瑛人差し向けんぞ」

「なんで彼モテないの?」

「さぁ? 1年の時にやらかしたのがデカイんじゃない?」

「大方君のせいじゃん」

「大方先輩方のせいでしょ」


 我々が入学直後にやらかした大立ち回りは校内でも語り草だ。上手く回避したのは静音のみで雨乃・俺・瑛人なんかはモロに風評被害を食らってる。表立って動いてない夢唯はノーカンだが保健室登校なので別ベクトルで変な噂が立っている。


「停学2週間だからね、みんな」

「そうそう、おもろかったね」

「笑えないよ全く」

「おっ、被害者ズラすんじゃん月夜先輩〜」


 一年前の事件において夢唯以外は全員停学処分を食らっている。月夜先輩と茜さんは1週間、残る新入生は2週間という塩梅だ。


「んで、暁姉妹は部に入れたけど今後はどうすんの?」

「おや、やけに積極的だね」

「いんや巻き込まれんなら先に聞いときてーなってだけだよ」

「うーん、目下の課題は暁姉妹だったんだけど予想外に結果が良かったからねぇ。当分は地道に情報集めて症状持ち探しかな」

「んじゃその間特になんもしねぇの?」

「いや、暁姉妹の症状を解明しようかなとは思ってる」

「あっそう」


 今のところ荒事の予定は無さそうで安堵した。

 前回の件が予想よりも雨乃さんスタンプを貯めたせいで暫くは大人しくしていたいのが本心だ。


「怪我は?」

「あ? あー、もう完治してるよ元気元気」

「茜からは君が泣いてたって聞いたけど」

「そりゃ痛いもん、倍だぜ?」

「君には迷惑かけたねぇ」


 本当に迷惑かけたと思っているのかこの男は。


「そういや月夜先輩も来てたんすよね」

「ん? 何が?」

「いや、俺がボコされた日」

「あぁ、うん……来てたは来てた」


 俺の問いかけに明らかにバツが悪い顔をした月夜先輩。


「え、なに? なんかあったのあの後」

「いやまぁ、大体想像つくでしょ? 行きは雨乃ちゃんと2人、帰りはギャン泣きの暁姉妹にぶっ倒れた君だぜ?」


 あー、それはなんとも可哀想だ。

 特に行きが地獄だろう、なんせ俺が無茶やらかしたのを察して超不機嫌な雨乃と二人きりだ。その上、雨乃は心も読めるし月夜先輩が嫌いと来ている。


「なんか言われた?」

「そりゃもう……行きの車なんて謝りっぱなしさ」

「月夜先輩が悪るいわけじゃねぇのに」

「行きはまぁ良かったよ、帰りがね」

「え、なに気になる話し方すんじゃん」


 まぁでも考えてみりゃ帰りの方が地獄だろうな、絶対死ぬほどキレてるだろうし。

 雨乃のことだから月夜先輩の心中を読んで夢唯に未来観測させたのも知っただろう、その上で俺がぶっ倒れてるんだから、彼女の機嫌が酷いのは火を見るより明らかだ。


「未だに後悔してるよ、ちょっとカッコつけて雨乃ちゃんに言ったんだよ」

「なんて?」

「僕を殴って貰って構わないって」

「あーあ、ぶん殴ったろアイツ」

「うん、殴って貰って……の辺りでもう拳が飛んできた。彼女、いいパンチ持ってるね世界狙えるよ」

「ぎゃははははは!」

「笑いすぎだろ!」


 くそ、気絶してる場合じゃなかったな。そんな面白いもん見逃したくなかった。


「愛されてるね君は」

「愛されてますよ、俺は。その愛がちょっと俺の求める方向性と違うだけで」

「そうかなぁ? そうは見えないけど」


 俺は雨乃に愛されてはいるだろうが、その方向性は家族愛とか親愛とかそういうもんで恋愛じゃない。

 彼女と俺の関係性に恋は絡まない、ただ愛だけがある。


「愛もいいけど恋がいいな俺は」

「贅沢だね君は」

「そうかぁ? そうかなぁ? ま、そうかもな」


 分かっているからこそ踏み出せない、最後の一歩を踏み込めない。埋まりきった外堀を更に埋めていくくらいしかできない。

 なんともまぁ遠回りなことだ、恋愛の下手さじゃ瑛人といい勝負である。


「月夜先輩は茜さんとはどうなの」

「なんだい恋バナかい?」

「後輩と恋バナくらい繰り広げないと器のデカイ先輩とは言えねーぞ月夜先輩」

「部屋に来た後輩に炭酸水をくれてやるくらいは器のデカイ先輩だと自負してるんだけどね」


 その返しに俺はケラケラと笑うが月夜先輩は至って真剣な顔で顎に手を当てていた。


「茜と僕ね……でも僕らも近いかもね君らに」

「嘘だぁ」

「嘘じゃないよ、恋もあるだろうけど多分それ以上に僕は茜に愛されてる。というか守られてる……ほっとくと死ぬと思われてるんだろうね」

「守られてる……ねぇ」


 雨乃の顔を思い浮かべてもあんまりピンとこない。


「茜曰く僕と君は似ているらしいよ」

「は? 冗談やめて欲しいね」

「僕も同意見だ」

「なんだと!」

「茜が言うには雨乃ちゃんが僕を毛嫌いするのは夕陽君に似てるかららしい」

「違うと思うって茜さんに言っといて、雨乃が月夜先輩嫌いなのは一年前の事件と俺を厄介事に巻き込むからだって」

「否定したいけど出来ないね!」


 でももし茜さんの見立てが正しいのだとしたら何故雨乃は月夜先輩が嫌いなのだろうか?


「んなもん、お前の生き方が気に食わないからでしょ」

「うわっ! びっくりした音もなく背後に立つな瑛人! つーかどこから来た!?」

「まぁまぁそれはいいから。月夜先輩、俺にも炭酸ください 」

「僕の後輩達は遠慮を知らないねぇ……ほらっ」


 瑛人は俺の隣を陣取ると月夜先輩から受け取った炭酸水を一口飲んで汚いゲップを繰り出した。


「んで、なんだよ俺の生き方が気に食わないって」

「そのままでしょ、お前のそのなんつーの? 傷を厭わないってか『痛いの明日の俺だしまぁいいか!』みたいなの」


 痛いところを突いてくる男だ、伊達に幼馴染やってない。


「じゃあ雨乃、俺のことも嫌いじゃん」

「でも長い付き合いだから許しちまうんだろ? んでもって、似てる生き方の最近知り合った月夜先輩は嫌い。難しい話か? これ?」

「確かにね、なんでそこまで分析ができるのにモテないんだい瑛人君」

「夕陽、あの先輩ぶっ殺していい?」

「まぁまぁモテないの事実だし。あの先輩、この前雨乃にぶん殴られてっから許してやれよ」

「ぎゃはははははは!」

「笑い方一緒なのムカつくなぁ!」


 しょうがない、幼馴染だから。


「ま、かく言う俺もお前のそういう生き方が心配ではある。イカレ具合としちゃ、さすがの紅星家だなとも思う」

「おいこら、俺の家族の悪口は許すが俺の悪口は許さんぞ」

「普通逆でしょ。というか瑛人君、紅星家って一括りにしたけど……」

「夕陽、上に双子の姉と兄貴がいるんですよ」

「そそ、姉二人は魔王で兄貴は完璧超人……んでもって父親はド変態で母親は覇王」

「何その家系、怖い」

「人の家系に戦慄すんなよ!」


 確かに我が家はだいぶヤバい。

 兄貴くらいしかマトモなやつが居ない家庭である。

 俺は心底、雨乃と雨乃の両親と暮らしてて良かったと思っている、元の家に戻ったら二日で胃に穴が開きそうだ。


「あっ、そういえば兄貴こっちくるって」

「うっそマジで、夕帆君来んの?」

「いつ来るかは知らんけどな」

「君ら仲良いねぇ流石は幼馴染だ……てか、夕陽君って瑛人君から逃げてたんじゃなかったけ?」

「「あっ」」


 思い出した瞬間、隣の瑛人と目が合った。


「じゃあな月夜先輩! 炭酸ご馳走様!」

「月夜先輩炭酸ありがとうございました。まて殺す夕陽ィィ!」

「まったく、君らは元気だねぇ」


 全力疾走ラウンド2。

 どうやら昼休みが終わるまでは俺に安全圏はないらしい。



仕事が忙しく、なかなか更新出来ませんでしたが暫くはチマチマと投稿してまいります

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