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-evening rain-  作者: 輝戸
ステージ1
14/15

13話 lie

13話


 月夜先輩は暁姉妹の症状をホワイトボードに書き出して劇がかった手つきでホワイトボードをノックした。


「彼女らの症状は現状僕らの間でも初めての周囲に作用する症状だ。見せてもらってもいいかい?」


 俺と南雲が遅刻した間に顔合わせは済んだいたのか暁姉妹は素直に頷くと、直後ノータイムで机が爆発した。

 あまりにも突然だったので夢芽はひっくり返り、南雲は椅子から転げ落ち、俺と雨乃は声を上げて椅子から飛び退いた。

 堂々としているのは命令した月夜先輩と症状を使った暁姉妹、それとゴリラ茜さんだけ。


「うははは、ドリフみたいだ」


 転げ回る俺達を見てケラケラと笑う月夜先輩にブチ切れた雨乃と南雲が掴みかかろうとするが茜さんが「どうどう」と言いながら捕まえているせいで月夜先輩はノーダメージ。

 夢芽は未だに部室の隅で震えていた。


「テメェらッ! やるならやるって言いやがれ!」


 俺が机を叩きながら正当な抗議を暁姉妹に入れるも二人してきゃきゃと笑っていた、お前らほんとそういうところだぞ!?


「だって、突然やったほうがびっくりするよね冬」

「ねー? 面白かったねみんなの顔」

「最悪だ! 最悪だぞお前ら! だから友達居ねぇんだ!」

「「先輩最低!」」

「事実だろうが!?」

「無駄よ夕陽、こいつら性格悪いわ」


 雨乃は茜さんに勝てないと踏んだのか怒りを顕にしながら戻ってくる。


「あー先輩酷い!」


 若干静音の影響を受けたであろう夏華の呼び方に雨乃は眉を吊り上げたが夏華が静音と同じ手合いとみると抗議は無駄だと判断して不機嫌そうに頬杖をついた。

 月夜先輩はひとしきり落ち着いたのを見計らって講釈を続ける。


「と、言うようにだ。今まで肉体強化や読心、未来予知と……夕陽君のは何と呼ぶんだろう、まぁいいや」

「流すな流すな、痛覚遅延でいいだろ」

「馬鹿の無茶ね」

「雨乃さん? 矛先はあっちだよ、今日は俺じゃないよ」


 狂犬雨乃は噛み付くやつを選ばない、大抵の場合俺なのだが今日は宿敵月夜先輩がいるのでそっちを噛んで欲しい。


「暁姉妹の症状は外部に出力できるタイプの症状だね、これは稀だ」

「「えへへへ」」


 褒められているのが嬉しいのか二人して照れ照れと頭を搔く、一見可愛くも見える仕草だが爆発させてビビらせて来たのでムカつくだけだった。


「右に同じ」

「だよね、雨乃ちゃんと同じなんて嬉しいね」

「撤回するわ」

「ひっでぇ!?」


 暁姉妹はそんなやり取りを横目に楽しげに笑いながらバッグから何やらグミのようなパッケージを取り出して豪快に鷲掴みにすると口に運んだ。


「何食ってんの」

「これが彼女達の副作用、デメリットだね」


 月夜先輩の説明を引き継ぐ形で夏華よりも先に食べ終わった冬華が俺に向かって先程の袋を投げた。

 上手いことキャッチして手に取ってみるとブドウ糖と書いてある。


「私と夏、症状を使ったあとは絶対甘いものを食べないとダメなんです。食べないとすぐ倒れちゃって」

「ブドウ糖ね……甘いものというよりも脳のエネルギーがいるのね」


 雨乃は俺の手の中のブドウ糖のパッケージを見ながら一人で納得したようだ。


「二人はどちらかというと夕陽君や夢芽ちゃんタイプだね、使用後に代償を求められる」


 月夜先輩が俺と夢芽を指して言った。

 俺の場合は遅延した痛覚が1日後に増して襲ってくる、夢芽の場合は眠気が直ぐに襲う。

 暁姉妹は症状の使用後は脳みその栄養をぶち込まないと倒れる、なるほどどうして並べてみれば確かに俺や夢芽と同じタイプだな。


「さて、これでまたひとつ症例が増えた。喜ばしいね、夕陽君のおかげだ」


 その言葉に雨乃の視線が月夜先輩を向いた。


「……夕陽におんぶにだっこでしょ、ずっと」

「痛いところを突くね」

「はっ! 毛程も何も感じてない癖に」

「はいはい雨乃さん、落ち着いて」


 雨乃は月夜先輩が本能的に嫌いなようで事ある事に突っかかるが今回の件は特にそうだ。聞いた話では昨晩も車内で俺が倒れている間に一悶着あったらしい。

 昨日の件は完全に月夜先輩の想定外の事だし、別に支持されてやった訳じゃないので彼のせいでは無いのだが月夜先輩とつるむようになってから傷の耐えない俺を見ている雨乃はよく思っていない。

 

 後輩二人は昨日の件の当事者なので少しばかりシュンとして下を向いてしまった。折角、持ち直したというのに少しばかり可哀想だ。

 俺は雨乃の顔をグイッと掴み暁姉妹に向けると雨乃はハッとしたような顔をした。


「ごめんね、2人に言った訳じゃないから」

「いや、昨日の件は……」

「はい、全部私達が引き起こしたことです」


 暁姉妹は立ち上がり、俺達を見回すとしっかりと頭を下げた。


「「ご迷惑おかけして、すみませんでした」」


 結局、昨日の件は全て俺のお節介と無茶やる癖で起こったことだ、原因が暁姉妹にあったとしても。

 俺が謝る二人を止めようとするといつの間にか後ろに回ってきていた茜さんが俺の肩を掴み静止する。


「夕陽、ケジメってのは大事だ」

「でもよ、茜さん」

「お前の言いたいことはわかるよ、でも原因は二人にある。しっかり省みて謝罪をする機会を奪ったらダメだ」

「茜さんに同意だな、暁姉妹のやったことは褒められたもんじゃねぇ。夕陽がいなかったら、夕陽が俺に連絡して俺らが間に合ってなかったら……どんなめにあってたかも分かんねぇ。反省ってのは大事だよ」


 茜さんに南雲、二人にそう言われれば俺は黙るしかなかった。

 多分、2人が正しい。


「優しいのは夕陽のいい所だよ」


 いつの間にか雨乃の足元に隠れていた夢芽がそう言ってくれたので少しばかり救われたが、なんでお前そんなとこいんの?


「知らない人いるし、爆発したから怖がってるのよ。夢芽繊細だから」

「お母さんなのお前?」


 あやす様に夢芽の頭を撫でる雨乃、いいな俺も撫でられたい。


「つーか、一番の被害者はお前だろ夕陽」


 南雲が欠伸混じりに俺に水を向けた。それは俺が二人の謝罪に答えなければ終わらないということで……


「もう、症状を悪用すんなよ何があっても」

「「はい」」

「万能じゃねぇよ俺達のコレは、昨日も言ったからくどいけどな」


 頷く二人に溜息混じりで片手を振った。


「反省したらそれで終いだ、もう謝んなよ」


 その言葉に二人は大きく頷くと、雨乃の手が俺の頭に伸びた。


「……なにしてんの」

「よく出来ました」

「ガキじゃねぇんだぞガキじゃ」


 撫でられたいとは思ったが人前でやるな人前で、恥ずかしいだろ。


 ・・・


  生徒会の活動がある茜さんが席を外し、イラつく雨乃もいるのでここらで一旦切り上げるのが正解だろうとの判断で簡単な二人の症状の解説、それと部活への歓迎を終えてお開きの流れになった。

 二人は学内に友達が居ないため、少しでも学内での顔見知りや先輩が増えるのはいい事だろう。警戒心も何処へやら「明日も来ます!」と元気よく言い残して部室を後にした。


「雨乃、夢芽連れて先行ってて」


 俺の発言に怪訝な顔で返す雨乃、ちっとも信用されてない。


「大丈夫だよ伊勢、俺もいるから」


 珍しく空気を読んだ南雲の助け舟を鼻で笑って吹き飛ばした雨乃は「南雲君も居るから信用出来ないのよ」と呟いた。

 南雲はしばらく押し黙ると両手を上げて降参のポーズ、役に立たないにも程がある。


「後で説明すっからよ、とりあえずは聞いてくれや雨乃」

「……」

「嘘ついてねぇか症状使っていい」

「ブロッコリー3個食え」

「……2個なら食う」

「よし、交渉成立よ」


 うーん、説明責任は果たしたのに何故かブロッコリー食う流れになってしまった。

 まぁ最近ずっと心配かけてたから罰は小出しに受けとくかの精神で雨乃と夢芽を追い出して俺は部室の内鍵を閉めた。

 月夜先輩は俺達のやりとり口を挟まず、諦めたように窓枠に腰をかけてこちらを傍観している。


「なんだい二人揃って僕を閉じ込めて、襲うきかい?」

「わりーけどそんな空気じゃねぇぜ月夜さん」


 南雲が軽く刺すと観念したように窓枠から腰を離しコーヒー豆を手に取った。


「あんまり楽しい話じゃなさそうだね、コーヒーでも飲むかい? 二人共」

「飲む」

「貰う」


 月夜先輩がコーヒーを淹れる間、南雲も俺も言葉を交わさなかった。なんとなくの役割分担は決まっている、聞くのは俺で何かあった際に身体を張るのが南雲の役目だ。

 目の前に運ばれてきたコーヒーに口をつけ、口の中の水分が乾かないうちに俺は月夜先輩を見つめて口を開く。


「アンタ何を知ってる?」

「漠然とした問いかけだね」

「確証がある訳じゃねぇんだ、だが俺は何となく思ってる。アンタもしかしたら何か知ってたんじゃねぇか? 昨日起こることについて」


 それは何故か昨日月夜先輩があの場に現れた事に起因している。南雲が呼んだのは茜さんだけだ、そして茜さんは雨乃と同じように月夜先輩が傷つく事を良しとしない、そんな彼女がわざわざ連れてくるだろうか?

 でも、彼は居た。

 なぜ来たかの経緯は知らない、俺はずっと殴られてたし、その後は気絶していたから。


「茜から連絡があったからね、君が暁姉妹の傍にいるって」

「茜さんに聞いてもいいか」

「悪い、嘘だ」

「なんで二秒でバレそうな嘘つくんだよ」


 呆れ気味にそう言うと、月夜先輩は舌を出して「ジョークだよ」と嘯いた。そして諦めたように何かの紙を財布から取り出してこちらに投げる。

 キャッチした南雲はその紙を読むと「あー」と納得した声を出して俺に回してきた。

 紙はレシートで内容はゲームのカセット……ならば共犯者は分かった。


「夢芽に未来を見させたのか」

「ゲーム2本と引替えにね、その代わり君らには黙って貰ったけど」

「なんで口止めしてんだよ」

「君ら怒るだろ、僕があの子に勝手に症状を使わせると」


 まぁ、それは確かに。

 つーか南雲も怒るの? 口ぶりからして前例が何かあったらしい、ていうかやっぱりお前ら付き合ってんの? そこんとこ気になるわ、ついでに説明してくんねぇかな。

 そんな馬鹿な考えは脇に置き、俺はレシートを月夜先輩に投げ返すと尋問を続ける。


「なんで昨日未来を見させた?」

「君が何かすると思ったからね」

「は? どういうことだよ」

「君らが接触したのは聞いていたからね、接触したからには事態が動く、君はそういう奴だ」


 嘘はついてないように思える、根拠は無いが口ぶりがただ確信めいている。

 それがなんだか気持ちが悪い。


「なんで言い切れる?」

「信じているからさ、君は僕のヒーローだからね」


 薄ら寒い笑顔を見せながら彼がそう言った。


「前から聞きたかったんだがよ月夜さん」


 南雲が退屈そうな声で月夜先輩を見た。


「アンタ、夕陽に何を期待してんだ?」

「……」


 月夜先輩は静かにコーヒーのカップを傾ける。


「彼が状況を打破してくれる事をだよ」

「意味が分からん」

「分からなくていい、何も無いならそれでいいんだ」


 彼は身体を傾けて校舎に差し込む夕日を見つめる、その横顔は懐かしむようにも悲しんでいるようにも見えた。


「時が来たら話すよ、だから今はまだ話さない」


 南雲は溜息を着くと頭を横に振る、話す気がないのは今ので俺にも伝わった。

 結局、どこまで行っても千日手。多分殴ろうが何しようが彼が口を割る気はない。


「ま、いいや今日は。ここまでらしい、行こうぜ南雲」

「いいのか?」

「いいんだよ、荒事しようって段階でもねーしな」


 荷物を取って立ち上がる、南雲もとりあえずは俺の意思を尊重してくれるようだ。

 南雲を先に外に出て、俺もその後をついて行きながら部室を完全に後にするその前に振り返り月夜先輩の目をしっかりと見つめた。


「聞かねぇでいてやる。でもな、よく覚えとけ」

「何を?」

「もし仮にアンタの抱えている何かが雨乃や俺の周りに少しでも被害をだしたら」


 そこで言葉を切って踵を返した。


「何がなんでも暴いて終わらせる、それだけ忘れんな」


 言葉は返ってこなかった、返って来ないことも知っていた。

 南雲と俺は会話もなく歩きながら雨乃と夢芽の元に向かう。もうすぐ靴箱に着く、その手前で南雲が足を止める。


「夕陽」

「なんだ」

「気、引き締めとけよ……何かあるぜ」

「知ってるよ」


 靴箱付近で壁に背中を預けてもたれ掛かる雨乃と夢芽、二人は俺達の顔を見ると「遅い」と文句を口にした。


「何かあったの?」

「なんでもないよ」

「説明してくれるんでしょ」

「説明するほどの収穫がねぇんだよ、なぁ南雲」

「あぁ、全くないな」


 雨乃は不機嫌そうな顔をして「まぁいいか」と、とりあえずは深くは聞かない方向らしい。

 中々レアな四人組で靴箱で口を履き替えて外に出る、少しばかりの薄ら寒さが背筋を覆った。

 俺はそんな空気を吹き飛ばすように軽い調子で南雲と夢芽に視線を向ける。


「ねぇ、お前ら付き合ってんの?」

「あ、それ私も気になってた」


 俺と雨乃の言葉に南雲はいつものアホ面だったが夢芽はみるみる顔を真っ赤にしている。


「にゃ、にゃにをお!?」

「言語中枢に異常が出てるぞ夢芽」


 しばらく遊べる玩具が手に入った、この二人の関係性は突っついて遊ぶべきものらしい。

 普段通りの日常にようやく戻った実感を感じながら俺達は帰路に着いた。


 

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