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プロローグ
昨晩雨が降った。
それはもう、轟々と降ったのだ。
玄関を出ると昨日の雨の残り香が鼻を掠めた隣では彼女が靴を履く音が聞こえる。
「止んだわね」
心做しか嬉しそうに彼女が言った、水溜まりに反射する朝日が少し眩しくて俺は視界を片手で隠す。その横を彼女の軽い足取りが横切った。
名前に雨が着いているのに雨が嫌いで、雷も雨の音も苦手な癖に雨上がりの光景が何よりも好きな女の子。
長く艶やかな黒髪を踊らせながら彼女の視線が俺を射る。
「何してんの、置いてくわよ夕陽」
「いんや、ちょっと眩しかっただけ」
「何が?」
「雨乃ちゃんが」
「はいはい、適当言ってないで早く行くよ」
いつものように流される軽口。
俺の全てなどお見通しだと言わんばかりの表情で彼女が俺に視線を向けた。
「馬鹿なこと考えてないで、早く行こう」
「あぁ、そうだな」
まず先に言っておきたい事がある。
これは俺が恋焦がれた彼女に思いを伝えるまでの本当に長い長い前日譚のようなものだ。
少しだけ不思議でどうしようもなく宙ぶらりんな俺と少しだけ不思議でクールな彼女の物語。