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2024 誕生

 2024年 ジャカシティ

 ジャカシティは夢と絶望が隣り合うギャンブルの街だ。

 そんな街で有名な人物の一人がラルフだ。彼は強いギャンブラーであり、今も目の前で空の財布を眺めて泣きわめく対戦相手に冷笑を浴びせて出てきたところだ。

 「今夜は随分稼げたな。キャバクラにでもしけこむか・・・」満足そうに膨らんだ財布を眺める彼であったが、突如その後ろから不快な声が聞こえた。「よお・・・あんた・・・」

 ラルフはきっと振り向いた。「あ?なんだてめえは?」

 ラルフが嫌いなタイプの人間がそこにいた。ホームレスだ。「俺たち金持ちにたかってんじゃねえ!」と早速罵声を浴びせるラルフ。周りにいた取り巻きのチンピラたちが凄む。「あんた、引っ込んどいたほうがいいぜ!」彼らは鉄バットを取り出すが、このホームレスは意に介さない様子で変な事を言う。

 「わしが一族の最期の生き残りだ・・・あんたに血を受け継ぎたい。皆わしたちの村を破壊してしまった・・・かつてはここにあったのに。」老人は泣いている。

 「けっ!ヤク中かよ!お前らその爺さんは話が分からねえ。かまうな、行くぞ!」チンピラに声をかけたラルフは歩き出したが、その瞬間ホームレスの老人が足にすがり・・・かみついた。「すまねえな。わしが死んじまえば人狼の血は途絶えるんじゃよ。」その瞬間「ラルフさんに何しやがる!」チンピラが鉄バッドで老人を殴る。「うっ!」老人は倒れて頭から血を流しながら這って去っていった。

 「くそ・・・血が出てやがるぜ!」ラルフは悪態をつくとハンカチで軽く足の血を拭い、キャバクラ「バニーハート」に向かう。


20分後

 「はああ・・・」キャバクラ「バニーハート」の控室でため息をつくのはここで働く従業員ベラだ。「ベラ、少しは休んだらどう?」と同僚のタニ―が心配そうに声をかける。

「休むわけにはいかないのよ・・・」と暗い顔でベラは答えた。

彼女の頭にあるのは最低の同棲相手ジョンだ。彼はギャンブル依存症のくせにギャンブルには弱く、借金を作っていた。その額は膨らみ、遂に裏社会から借金するようになった。彼らは冷酷だ。どんな非人道的な手段であろうと借金を取り立てようとする。そして債務者が返済できない担保を取る。そして夫は奴ら以上に最悪だった。何とベラを担保に差し出したのだ。

 そして債権者のギャング「クラッシャーモンキー」は配下の風俗店「バニーハート」にベラを派遣したというわけだ。

 タニ―はこの店の前店主がクラッシャーモンキーに担保として店の利権を差し出したことを知らない。

 「はあ・・・行ってくるわ。」ベラは無理やり笑顔を作ると自分を指名した客のもとに歩いていく。「こんにちわ~!ごゆっくりね。」彼女がそう声をかけた客は随分青白い顔をした細身の老人だ。(なんか不気味な爺さんね・・・)ベラはゆっくりと隣に座る。「やあ。」老人は低い小声で答えると「飲み物は何があるかな?」と聞いた。「そうですねえ・・・何がお好きですか?」「私かね?私は・・・ワインがもらえると嬉しいんだが。」「おすすめのロマネコンティをお出ししましょう。」そう言って彼女はボーイを呼び止めた。「ロマネコンティ一本開けてもらえるかしら?」「はい、ロマネコンティ一本!」ボーイは叫んで奥に入っていく。


 「気持ちわりい爺さんだな・・・」ラルフはそうチンピラ達に言うとバーカウンターの最も近い席に座る。

 「こんにちわ!待っておりましたよ!」ラルフが腰を下ろした後近づいてきたのはタニ―だ。(女をを金で動かすのはおもしれえなあ・・・)ラルフはにやり、と笑うと「早速シャンパンタワー頼むよ」と言った。「あらま、嬉しい!」タニ―は大喜びしてボーイを呼びつけた。「シャンパンタワー入れて!」「おお、お客様、誠にありがとうございます。ただいまシャンパンタワー入れます!」ボーイが叫ぶと周囲から歓声が上がる。


 (ああ・・タニ―、楽しそうだわ。しかもあのハンサムギャンブラーラルフさんと)ベラはうらやましそうにタニ―を眺める。

 この不気味な客は寡黙であった。「ご趣味なあに?」というタニ―の質問に「とくにはないな。私は人間どもの娯楽に興味はない」という冷たい返事だ。何故こんな店に来たのだろう。そこで理由を聞いてみたところ「実はいい女を探していてな・・・私の後継者に。」とまた訳の分からないことを言うのだ。「ワインはお詳しいのですか?」という質問には「いや。ただよく飲むのから頼んだまでだ。」とめんどくさそうに答えるのだ。

 その時、いきなり老人は言う。「お嬢ちゃん、ここはお触り禁止かね?」「え?」「知りあいの人間から聞いたんだ。お触りとやらが禁止じゃない店もあるとか!」その老人の目の奥に狂気が見えた。しかし近くを通りかかったギャングメンバー兼用心棒が言う。「むろんお触りOKですよ!」

 この店は腐ってもギャングの管理するキャバクラだ。客からより多くの金を引っ張ることしか考えていない。従業員の安全など二の次だ。

 「そうかね・・・では・・・」(ああ、最悪、そういうタイプね。)ベラは身構えた。

 だが老人は予想を上回る変態だったようだ。「キャッ!」思わず声を上げるベラ。何と老人はベラのドレスを割き、肩を露出させると噛んだのだ。

 「これでいい・・・これでいい・・・わしのなすべきことはした・・・」そうつぶやく老人の歯には血が付いている。

 「えっ!」ぎょっとしたベラは肩に手をやる。べっとりと血が付いた。


 「うっ!」「ラルフさん、どうしました?」蹲るラルフにタニ―は声をかけた。周りのチンピラも心配そうに寄ってくる。

 「外だ・・・外だ・・・」ラルフはそうつぶやくと立ち上がり、タニ―を突き飛ばし、チンピラを押しのけて外に出る。

 ネオンサインを避けて裏路地に入る。

 「ラルフさん!?大丈夫ですか!?」チンピラ達がおいかけてくる。「おい料金を払えよ!」チンピラの後ろから店の用心棒。


ベラは傷口を押さえた。火傷のようにヒリヒリとした痛み。そしてその熱さが体の内部に入ってくる感覚。「うっ・・・」ベラは嘔吐しながら倒れ、気絶した。

 「はいロマネコンティ・・・えっ!」肩から血を流して倒れるベラに驚いてボーイは飲み物を落とす。

 そして彼女の客である黒いコートの男は既に消えていた。


 「うわあああ!」ラルフは服とシャツを破り捨て、全身を搔きむしる。そして空を見た。満月だ。ラルフは何故か分からないが興奮した。「ハハハハハハ・・・」ラルフは上裸になって空に向かって笑い声をあげる。

 「おい、てめえ!」店の用心棒達はチンピラを全員気絶させていた。彼らは鉄バットを持ってラルフに迫る。「おいてめえ、料金を払えよ!あんたがギャンブルの王だろうがなんだろうが関係ねえ!払う物払えや!」

 「ああん?」そう言ってラルフは振り返る。「えっ!」用心棒たちは固まった。ラルフの体は変形していた。骨格が明らかに一回り大きくなり、爪が一瞬で伸びた。鼻のあたりの骨は前に突き出し、獣じみた顔になる。歯は鋭く細く伸び、牙のようになっていた。

 「グガー!」ラルフは人間のものとは思えない唸り声を上げ、鋭い爪で用心棒たちに襲い掛かった。


 救急車の中でベラは目を覚ました。「ああ、良かった・・・」近くの看護婦が言う。「あなた肩から酷い出血よ。穴が開いたみたいになってるわ。何か道具で刺されたのね。アイスピックみたいなね。ああ、可哀そうに・・・おかげでこんなに真っ白に。」そう言われた彼女は腕を持ち上げる。

 そしてその白さにぎょっとする。紙のように真っ白ではないか!

 その時、彼女の目に看護婦の胸元が映る。ピンクがかった色・・・血が流れている筈だ。少し貰いたい・・・

 彼女は気が付くと救急台の上に身を起こし、看護婦の胸元にかぶりついていた。「キャー!」救急車の中に悲鳴が響き渡る。

 そして彼女はさらなる血を求めるために街中に繰り出した。


四日後

 ガードナーは薄暗い路地でクライエントと会っていた。

 「奴を殺すなら高くつくぜ。あんたのボスがどれくらい金を持っているかしらねえが・・・」「金か?金なら持って来た。」そう言って覆面で顔を隠したクライエントは手に持っていた袋を開けた。中に大量の札束が入っている。クライエントは言う。「前金だぞ。」「よし、いいだろう。マッケンリーリゾーツの労働組合長は殺してやるよ。」「ありがとさん。」「あとあんたのボスにもよろしくな。」「何度も言っているだろう。俺にはボスはいねえ。俺の雇い主の依頼をあんたに取り次いだだけさ。マッケンリーさんはただあいつらがうるさいから殺しを頼んだんだよ。」「ふん、隠さなくてもいいさ。あんたがどこの組織に属してるかは見当がついてる。今回俺が殺すマッケンリーリゾーツの新組合長シュグナーはマッケンリーとはむしろ仲がいい。不審死を遂げた前組合長がロレンゾファミリーの力を使って会社上層部を苦しめたことを知っていて会社との関係改善およびロレンゾとの手切りを模索してるらしいからな。それと前組合長が暴走したからロレンゾの連中に殺されたと信じ込んでいる。あんたからの依頼で俺がやった奴だぞ。ああ、そんなに警戒するなよ。俺は口が堅い。ソース?情報屋に決まってんだろ。もし警戒してるなら情報屋の連中も消してやろうか?」「いや、いい。あと俺のクライエントについてはノーコメントだ。」「はいよ。」

 彼が2ブロック離れた立体駐車場につくと、自分の車の隣に見慣れた車がついていた。そこから黒髪マッシュの若い女が下りてくる。「おいおい・・・俺はこれからロレンゾファミリーからの大口の依頼を片付けようとしていたのによお!」「それはあとで。」「はあ?前みてえにあんたとの下らねえデートをする気は・・・」「馬鹿ね。もっと大事な要件よ。人外が見つかったのよ。」「まじかよ!?」「ね?いいからはやく車に乗りなさい。私の後を着いてきて。」そう言うと女は運転席に戻り、エンジンをかけた。


10分後

 ジャカシティは移り変わりが激しい。

 沢山のカジノが立ち、すたれていく。その誕生と消滅の繰り返しの中でこの街は成り立っている。

 そうした街の激しい波に飲まれた廃モーテルがある。苔に覆われた建物の中には瓦礫が積み重なり、その間を水たまりが沢山出来ている。この場所は麻薬取引やチンピラのたまり場として使われるようになっていて、違法薬物やたばこ、酒の臭いを放つゴミの山も見られる。

 今そのゴミ山の後ろに、何と狼がいた。その狼をなでるのはベラの客になったあの不思議な老人だった。

 「俺もだ。血の儀式を行った。迫害者どもには知られていないがな。」すると何と狼がしゃべる。血の凍るような低い声だ。「俺たちは最終手段を使った。俺たちの血を後世に伝えるためにな。」「ああ、これで悔いはない。」

 そのとき、激しい光が二人を照らす。「遂に来たか・・・」「ああ、そのようだな・・・」

 二人の目の前には車のヘッドライト。そしてそこから殺し屋ガードナーかつ迫害者の「殺戮天使」ラングストロが現れた。

 「随分やせ細っているな。もうそんな衰弱した状態では逃げられないだろう。人外の末裔であるあんたらを殺せば最高の世界が待っている。化け物が存在しない完璧な世界。神もお喜びになるだろうな。」彼は特殊な十字架が彫られているピストルを取り出した。教会から支給されているものだ。

 抱き合ってほほ笑む老人と狼を二発の弾丸が仕留めた。

 青い血に沈む一人と一匹の顔はしかし、安らかなものであった。

 




 

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