五十六、四畳半襖の下っ端リーダ
居酒屋でアキさんが話していた混血児リーダのほんとうの物語を、ひょんなことから私は知ることとなった。ある動画サイトにてそれが紹介されていたのだ。
それによると、リーダがアメリカ人と中国人のあいだに産まれたハーフであり、アメリカで育ったというところまではアキさんの話で聞いていた通りであった。しかしそれ以降の物語は全然違う。
彼女は捨て子であり、3歳の時に段ボール箱に入れられて厳寒のニューヨークの街角で泣いていた。
それを拾ったのは日本人の夫婦であった。
夫婦には子供がなく、リーダを見つけるとすぐにこっそりと日本へ連れて帰ったという。
時代は第二次世界大戦終戦直後であり、日本は戦後復興に皆で尽力しているところであった。
混血児であるリーダは嫌われ、差別され、しかし両親からは変わらぬ愛を貰い、厳しい時代を生き抜いた。
バラック小屋の中に蚊帳を張り、その外を舞う蛍の光を眺めながら、彼女は両親に聞いたという。
「蛍、なんですぐ死んでしまうん?」
両親は彼女に愛を注ぎながらも、必死になって働いた。リーダを蛍のような儚い目に遭わせまいと、トウモロコシの栽培に全力を尽くした。
やがて美しく成長したリーダはSNSでインフルエンサーとなった。ハーフならではのミステリアスな容姿が受けて、大反響となった。
ネット上の名前は『四畳半襖の下っ端リーダ』。よくわからないが、この名前も主に男性視聴者に受けて大人気となった。
彼女の紹介する商品はどれも飛ぶように売れた。リーダはお金持ちとなった。
それでも両親は義娘の人気に頼ることなく、トウモロコシの栽培を続けたという。
リーダは愛をくれた両親への恩返しとして、いつか豪華な家とかわいい孫をプレゼントするのが夢だという。
嘘話だなと思った。
ネットの話を鵜呑みにしてはいけない。ツッコミどころも多すぎる。
しかし私はリーダのこの話に感銘を受けた。純なものを感じたのである。
人間、いくら純粋でいようとしても、お金がなければ生きてはいけない。
リーダはインフルエンサーとなってお金を得ながらも、純な心を失わなかった。自分を拾って育ててくれた両親への感謝を持ち続け、私利私欲のためではなく、その恩返しのためにお金を使おうとしている。
その純な心に私は打たれたのだ。
ちなみに動画の作者は野坂という人物であった。
アキさんの上の名前も確か野坂だ。