五十五、怒りの舞踏
トーコは小説を書いた。
文学新人賞を獲るために、審査員にその身を捧げた自分の姿を赤裸々に描き、腐った文学新人賞の裏側を克明に描き、そして作品の中で審査員たちを次々とライフル銃で射殺していく女主人公の物語だ。
それを出版社に送りつけた。
きっとそれは編集長まで届くことはなく、一笑に付されて片隅に捨てられ、無視されることだろう。
しかし、そこに描かれた物語を、これから自分が実行に移せば、放ってはおけないはずだ。
きっとそのショッキングな内容そのままの事件が現実に起これば、その小説はベストセラーになる。
ばっちりメイクを施し、赤い唇で舌なめずりをすると、トーコはライフル銃を持って車を出た。
禿田高丸邸は夜の静けさに包まれていた。
小説の中では禿田を真っ先に殺す描写をしている。その通りの現実にしてやるのだ。
「禿田ァー!!!」
ライフルで窓ガラスを撃ち破ると、トーコは邸内に侵入した。
「来たぞォー! 北村踊子がおまえを殺しに来たぞ!」
目の前には武装した警官隊が待っていた。その後ろに守られて、禿田高丸が怯えた表情でこちらを見ている。
珍藝社の編集長の姿もそこにあった。
編集長は鼻で笑うと、トーコに告げた。
「筒井康隆『大いなる助走』の二番煎じだとすぐにわかったよ。君の野望はここで潰える」
警官隊に取り押さえられ、トーコは絶叫した。
「何が純文学じゃ、コンチクショオォォオーーッ!!!」