続続々・ナオキは死ぬことにした 〜 嫉妬 〜
トーコに婚約破棄を言い渡されても直樹はなんとも思わなかった。
それよりも前に医師から言い渡されていた。薬物の過剰摂取が重く響き、自分の余命はあとわずかだと──
べつによかった。
どうでもよかった。
純文学とは何か? なんてことがどうでもよくなったように、自分の人生もどうでもよくなっていた。
家族の誰も見舞いにやって来ない。きっとこんなところに身内が入っているのが恥ずかしいのだと思った。実際には面会謝絶とされているのだがそんなことは知らなかった。
院内の患者仲間たちは皆、いいやつだった。
江戸は自分より2つ年上のイケメンで、体つきは華奢だが、あの愛する兄が天国から戻ってきたと思えるほどに話が合う。
ドカさんはかなり年上だが、子供のようにかわいいおじさんで、夜にはそのやわらかいお腹に顔を埋めて眠らせてもらうことも多かった。
麻里は17歳の少女で、自慰行為依存症だ。昼でも夜でも人目があっても構わず自慰行為に耽っている。その清々しさに直樹は心を洗われた。
太ももがくっつくぐらいにベッドの上に並んで、直樹は江戸と会話をする。
「江戸さん、芸術ってこういうことだったんだね」
「そうだよ、直樹。ここが芸術の広場さ」
「あるだけで、存在しているだけで、人間とは芸術だったんですね」
「そうだ、直樹。おまえは芸術だ。ほら、こんなに……」
「もう大きくなっていますよ」
「うん、わかるよ。ものすごく固いな」
「江戸さんのも見せてくださいよ」
「いいぜ? たっぷりと俺の芸術を見せてやる。見てくれ、ほら!」
直樹は嫉妬した。
それは自分よりも立派で、複雑な形をした、とてつもない芸術だったのだ。
「し……、嫉妬……!」
直樹はいきなり立ち上がると、大声で叫びだした。
「嫉妬ォ! 嫉妬嫉妬嫉妬ォォォォオ!!!」
嫉妬は彼の人生の目標を産んだ。
超えるべきものを見つけたのだ。