続・ナオキは死ぬことにした 〜 まの山 〜
ま
ま
ままま
直樹は病室で、医師から渡された白い紙にひたすらまを書いている。
ま
ま
まま
ままま
ままままままままま
なぜ、まなのかは、わからない。
トーマス・マンの『魔の山』をしいなここみは読んだことがない。
ぶ厚いからだ。
あと、病院が嫌いだからだ。
ま
ままま
まままままま
まままままま
まままままま
まままままま
直樹がまを書いていると、キ◯ガイ仲間の江戸が話しかけてきた。
「なんて芸術だ」
「わかる?」
直樹は嬉しくなった。
「まの山だね」
「わかる?」
直樹は心が通じ合う喜びに包まれたが、その感情は表には現れなかった。
なんだかここにいると心が落ち着く。
純文学とは何かなんてどうでもよくなってくる。
ただまを心のままにまを純粋なまままにまままままと書いているだけでま人間になれてみたされていくような気がするのだ。
「北村直樹くん!」
病室のドアを勢いよく開けて、トーコが入ってきた。
その後ろからは看護師が、「困ります! 面会許可を取っていただかないと!」と追いすがっている。
直樹が聞いた。
「君は誰だっけ」
「何を楽しそうにまをいっぱい書いてるのよ!」
トーコは入ってくるなり、まくし立てた。
「悔しくないの!? あれだけやったのに落とされたのよ!? あたしだってあなたのために、カラダを張ってあげたのに!」
地獄のような現実を思い出し、直樹は頭をおさえ、激しく髪をかきむしった。