五十四、ナオキは死ぬことにした
文学新人賞発表の日が遂に訪れた。
最終選考まで残ったことは既に連絡を受け、知っていた。
「あった、あった」
諏訪が『珍藝』を手に取った。
トーコがわくわくしているような笑顔で、諏訪の手に取ったその文学雑誌を見つめる。
私はなんだか気恥ずかしくて、三人の一番後ろを歩き、広い書店に隠れ場所を探したいような気持ちだった。
諏訪が早速受賞作品発表のページを開こうとするのをトーコが止める。
「買って帰ってからゆっくり見ましょうよ」
私もトーコに賛成だった。
早く見たいのは山々だが、お楽しみは後に取っておいて、豪華なプレゼントを開けてみんなでクラッカーを派手に鳴らすように喜びたかった。
しかし少し気にかかることとして、『珍藝』編集部から私に今のところ何の連絡もない。
こういうのは発表後しばらくしてから連絡が来るものなのだろうか?
まぁ、あれだけ頑張ったのだ。
あれだけ身を削る思いをして、裏工作を頑張ったのだ。
受賞してないわけがない。
そう思っていた頃が私にもありました。
オープンカフェのテーブルでそのページを開いた。世界中のみんなに自慢したい気持ちで、空の見える場所を選んだのだった。
大賞はなく、入賞したのは二作品。爆田琢磨という聞いたこともない男の作者と、何科SUNという若い女の子だった。
私の名前は選外のところにあり、『この次は頑張りましょう』みたいなコメントが添えられてあった。
「うーん……。残念だったね、北村氏」
私とトーコの血の滲むようなあの努力を知らない諏訪は、ふつうにそんな感想を漏らした。
「まぁ、書いてある通り、この次頑張れば……おおおいっ!?」
トーコが自分の手首を思い切り噛み、食いちぎっていた。
私はたまたまそこにあった睡眠薬をごっそり手に取ると、口に放り込んだ。死のうと思ったのだ。
私は救急搬送され、精神病院に入院することとなった。
登場する人物名はすべて架空のものです。ゆえに幕田卓馬さま及びなんとかさんさまからの許可は得ておりません。