五十二、族長のアキ
家族みんなで居酒屋へ行くと、見知った顔がいたらしく、親父がその人に話しかけた。おお、アキじゃないか! と気安く話しかけてからすぐに、ごめんなさいと謝った。それから親父はまるで太鼓持ちのようにヘラヘラとし出し、川の畔に新しい町を建設する話を始め、その町を司る一族の族長としてアキさんのことを相応しいお方だと持ち上げたが、私の目にはどう見てもアキさんと呼ばれるその中年男性は、その昔ラテンアメリカを暴政で支配したあの独裁者のコスプレをした、ただの変態おっさんであり、いかにも親父の知り合いだなという感じしかしなかった。家族とトーコの五人だけで楽しく飲むはずが、余計な異物が加わったな、という気がした。ところでこれは何のパーティーなんだい? とアキさんが聞くので、さぁ? と呆けたような笑顔で答えた親父の後から、トーコが私の文学新人賞受賞の前祝いだと口を滑らせかけたのを制止して、私が天井を指差すと、そこから王冠が降りてきて、アキさんの頭にすっぽりと被さった。するとアキさんはそれまでよりもさらに居丈高な態度となり、私たちのことを奴隷のように扱いはじめた。おまえたちはマルコ・ポーロやコロンブスを憎め! 日本を黄金の国とかでっち上げながら同時にカニバリズムの国だなどとひどい迷信にとらわれたマルコ! インドを日本と間違えて結局ラテンアメリカに災いをもたらすこととなるブス! 私は、私は……! 一体何が言いたいのだろう? 酔っ払いの話には脈絡がない。