四十四、我がホモ、スミス
ホテルの扉を開けると、テレビで見知ったその顔が、中から覗いた。
「いらっしゃい」
中島筋肉男だ。テレビで見るよりも精悍で、いい男だった。ただしかなり脂っこくて肌が黒いのが気持ち悪かった。今まで筋トレをしていたのか、白いランニングシャツが汗でびちょびちょだ。
「お邪魔します」
私はぺこりとお辞儀をすると、部屋の中へ通された。
ホテルの部屋がまるで彼のトレーニング・ルームだった。
所狭しとトレーニング・マシーンが置いてある。足の踏み場もないほどだ。その一角に置かれたデスクが小人用に見えてしまう。
まるで遊園地の一人乗りのアトラクションみたいな椅子に座るよう促され、ココア味のプロテイン飲料を渡された。
「来てくれて嬉しいよ」
私の顔を至近距離で見つめながら、ねっちゃりと笑う。
「踊子さんの受賞はこれからの君の態度次第だ。わかるね?」
「はい……」
覚悟はしている。私は緊張で全身をガチガチにしながらも、うなずいた。
「それじゃあ、今から君のことを『スミス』って呼ぶよ?」
「す……、スミス?」
「僕のことは『アンディー』って呼んでくれ給え」
「あ……、アンディー……」
「じゃあ始めようか」
「ま……、待ってください!」
ゆっくり近づいてくる彼の分厚い唇から私は逃げた。
「まずは僕のことを知りたいとかは? ないんですか?」
いきなりすぎて準備していたはずの心が壊れそうになったのだ。
「君のことは既によく知っているよ」
逞しい腕で私の腰をホールドしながら、真っ白な歯を見せて笑った。
「僕の妄想の中でね。君はほんとうにスミスにそっくりだ」
抗えない力に絡めとられ、私は強引に唇を奪われた。