四十三、夜伽草子
禿田高丸から電話がかかってきたらしく、トーコはすごく嫌そうな顔をしながらそれを受けた。
「先日はどうも……ありがとうございました。……はい。……はい。……ええっ!?」
電話を切ると、トーコがとても気の毒なものを見るように……私を見つめた。
「ど……、どうしたの?」
「北村直樹くん。今度はあなたの出番よ」
「どういうこと?」
「審査員の一人、中島筋肉男さんが、あなたのことを見初めたらしいの」
「へっ……?」
「是非、一夜を共にしたいらしいわ。禿田先生と二人で推せば、『北村踊子』の新人賞受賞は確実なものになるって」
中島筋肉男は新・無頼派の旗頭と呼ばれる純文学作家だ。
名前の通り筋肉ムキムキでよくテレビのバラエティー番組などにも出演している。
ハードゲイだという噂があるが、あれは本当だったのか……。
「ど……、どうして僕のことを知ったんだろう?」
「この間、喫茶店で禿田先生に会った時、近くの席からあなたのことをガン見してたらしいわ」
怖かった。
しかしここで自分を彼に差し出せば、新人賞は確実なものとなるだろう。
しかし、何が純文学だ。ちっとも『純』じゃないじゃないか。汚れきっている!
この汚れの中に身を投げ入れなければ、純文学はやって行けないというのか……。それならば……
「……やる」
私は、決意した。
「こうなったら何だってやってやる! 俺は純文学作家になるんだ!」
それは正確には『決意』ではなく、『ケツ意』であったかもしれない。