四十二、友情、あるいは優柔
薄暗いホテルの部屋のベッドの上で、私は目を閉じて筒竹さんの顔を思い浮かべながら、トーコとブンガク行為をした。
「北村直樹くん。文学は人と人との心の交流を描くものだといえるわ。そこには美しいものもあり、もちろん醜いものだってあるの。純文学は大衆小説のように読者の期待するものばかり描くとは限らない。すべてを描き出すのよ」
そう言われて、まず私は己の胸に手を当てた。
私は今、目の前のトーコと交流をしている。
だが、私は一体、彼女のことを、愛しているのだろうか?
これは愛情というよりは、友情なのではないだろうか? トーコがびっしりメイクをして美人の仮面をつけてくれるからブンガク行為もできるが──あるいは私が目を閉じて愛しいひとを頭に描けばそれが可能ではあるが、私は彼女のことを抱きたい女というよりは、ブンガク談義をするのが楽しい、とても相性の良い、信頼すべき友達だと思っているのではなかろうか?
それなのに私は彼女と結婚の約束などしている。
これは──私は、トーコを自分の純文学のために利用しているということになるのだろうか?
彼女を愛しているふりをして、騙して、自分が純文学新人賞を獲るための踏み台にしているのか?
……いや、私はそのような悪企みのできる男ではない。
私は世間知らずで、ついこの前まで童貞だった、純朴な貧乏学生だ。大衆小説に登場したらきっと、ただのモブである。
ならば私はなぜ、トーコとこのような関係を結ぶことになってしまったのか?
教えてくれ、武者小路実篤!
その時、天井から武者小路実篤の声が聞こえてきた。
「悲しき哉、優柔……」