四十一、中指Tの修行時代
ホテルの部屋の呼鈴が鳴った。
私はハマっていた麻雀アプリを急いで止め、内鍵を開け、ドアを開いた。
眉間に鬼のような皺を寄せたトーコが、イライラと髪をかきむしりながら、口だけでにっこりと笑った。
「北村直樹くん。『珍藝賞』はあなたのものよ」
「う……、うまくイッたのか?」
「ええ……。あのタヌキジジイ、わたしのお腹の上で三回もイッたわ。そして言ってくれた、『ぜひ君を大賞に推そう』って」
「ありがとう!」
私は魂の抜けた人形のようなトーコを抱き締めた。抱き締めながら、もう離さないと思った。次にもしかして芥川賞の候補に選ばれたら……その時はまたぱっと離すかもしれないが、それまでは絶対に離さないと誓った。こんなことになって改めて自分がどれだけ彼女を愛しているか思い知ったなどということはなく、やはり心の中を強く占めているのは筒竹都々さんへの想いであったが、私のためにこんなことまでしてくれるトーコの、私への愛に激しく感動していたのだ。
トーコは浴室に入ると長い時間をかけてうがいをし、シャワーを浴びた。メイクを落として出てきた彼女を見て、その素朴さに私はほっとした。なんだか鳥取県の田舎に帰ったような心地になった。
トーコはいきなり中指を立てると、言った。
「おまえとファックすんぞ!」
その中指が、なんだかジジイの無理矢理気味に勃起したペニスのように見えてしまって、私は思わず笑ってしまった。